自分の過去を打ち明けた時の慈愛に満ちたあの表情が忘れられない。
 そう、彼女もきっと私と同じ、いえ、私以上に辛い経験をしてきた。

 だからこそ幸せになってほしい。

 窓の横にあるテーブルに目を移すと、そこには古い手紙が置かれていた。
 テレーゼはそれをゆっくり手に取ると、悔しそうに唇を噛みしめた。

「あいつさえ、いなければ、いなければっ!」

 テレーゼは、自分の家業を乗っ取り、そして両親を死に追いやった”ある貴族”の名前が書かれた手紙を見つめて、そしてぐしゃりと潰して部屋を後にした──




『親愛なる フィードル伯爵
 
 あなたのその貿易における才は見事でございます。
 今晩のディナーも非常に有意義で楽しい時間が過ごせました。
 またぜひ、今度は娘のテレーゼ様もご一緒に……。
 
 
             あなたの友人 ビスト・ルセック』