「私も公爵様と楽しく生きてみたいと思いました」

 彼女にとっては今はこれを伝えるのが精いっぱい。
 これから先、少しずつ歩み寄っていけたらいいな、とそんな風に感情を取り戻してきたコルネリアは思っていた。
 すると、今度はレオンハルトが少し不満そうな表情を浮かべているのに気づき、自分が何か不快な思いをさせてしまったのではないかと考え込む。
 しかし、彼から返ってきた言葉は意外な言葉だった──

「レオンハルト」
「え?」
「名前で呼んでほしい」

 少し拗ねたような、どこか恥ずかしさを隠すような素振りを見せながら目を逸らしてコルネリアに告げるレオンハルト。
 コルネリアは恐れ多いという理由からずっと『公爵様』と呼んでいたが、どうやらそれが彼にとっては気にくわなかったらしい。

「本当にそのように恐れ多い事、よろしいのですか?」
「ああ、もしよかったら呼んでほしい」

 コルネリアは自分の手元にある紅茶の水面に映る自分の姿を見つめると、顔を上げて言った。

「レオン……ハルト、様」
「──っ!」