「離婚」という言葉が思わず口を突いて出たことに一番驚いたのはコルネリア自身だった。
 今までであればこうしたい、ああしたいという意思すらも持つことが少なかった彼女が、アスマン公爵の嫌味に気づき、そして自分の夫であるレオンハルトの悪口を言われていることに腹を立てた。
 そして、何よりそう言わせてしまった原因が自分にあると気づいて、自分から離れようとしたのだ。

「なぜ、と聞いてもいいかい?」

 今までに聞いたことのないほど低い声色で話すレオンハルトを見上げると、そこには怒っているわけでもコルネリアを非難するわけでもない、ただひたすらに悲痛そうな表情をした彼がいた。
 そんな顔をさせているのも自分で、自らの感情の回復による戸惑いが、とんでもない速度でぐるぐると回り、そしてそれを咀嚼できないほどに大きく成長をしている。
 思い起こせば朝食を一緒に食べた時にも、ドクンと心臓が鳴ったような気がしていた。
 ただの鼓動かと思っていたが、自分に感情が戻ってきている証だとは思わず、コルネリアは無自覚そのものだった。

「──っ!」