何も言わずとも彼の考えを見抜き、さりげなく手を添える──
 そういったことができる女性であった。


「クラリッサ、これを」
「あら、覚えててくださったのですか?!」
「ああ、婚約者の誕生日くらい覚えている」
「レオンハルト様はお仕事が恋人かと思っておりましたわ」
「そんなに僕は仕事人間だろうか?」
「ふふ、そうですね。でも、私はそんなレオンハルト様、好きですよ」
「──っ! 君には敵わない……」

 口元に手を当てて笑う彼女は、レオンハルトにだけ心を許していた。
 そして彼もまた、彼女にだけ心を開こうとしてた。

「レオンハルト様」
「どうしたリュディー」
「最近、シュヴェール騎士団の動きが怪しいです。内偵しますか?」
「そうだな、隣国との大事な会談も控えている。調査を頼めるか?」
「かしこまりました」

 リュディーがその場を去ろうとした時に思い出したように告げる。

「レオンハルト様、王女殿下がお呼びでした」
「クリスティーナが? ……忙しいと伝えてくれ」
「ちなみに『忙しい』は受け付けないそうです」
「はぁ……バレてるか……」