ヴァイス公爵家の領地は王都に近い代わりにそれほど大きくはなかった。
 それが先代公爵──レオンハルトの祖父が領民たちに密接に関わって政治が出来た要因ではあるのだが。
 領民に寄り添った治世の引き継ぎを目指しているレオンハルトも、貴族としての所作や知識だけではなく農業や繊維業、貿易業などあらゆる知識を得るように努力をした。
 そんな彼は、ふと報告書の中にある一つの資料が気になって目を止めた。

「婚約者か」

 彼の一番の側近であるミハエルはレオンハルトとほぼ年が変わらないにも関わらず、これまた彼の母親のように世話焼きな性格で、レオンハルトの婚約者候補を見つけては資料に忍ばせているのが常だった。
 今日もいつものことかと思いながら目を通していると、その婚約者候補の令嬢の髪がピンク色だったことに目がいった。

「淡い、ピンク……」

 その淡く、花のように華やかな髪は彼を一気に昔に引き戻し、そして幼い頃に祖父に連れられて行った教会の少女のことを思い出させた。

「コルネリア」

 ふと口に出してみた彼女の名は、彼自身の中で強く「会いたい」と思わせるのに十分だった。