レオンハルトが驚くのも無理はなかった。
 彼女が手をかざしただけで、なんと枯れていた花がまた太陽の方へと顔を向けて花びらを開いたのだ。
 噂には聞いていたが実際にその癒しの力を目にすると、レオンハルトは息を飲むほど驚き、そのまま横に座ってご機嫌そうに足をバタバタとさせる彼女を見遣る。

 レオンハルトが初めて教会に向かったすぐ後で、ヴァイス公爵は病に倒れそのまま息を引き取った。
 弱冠7歳にしてヴァイス家の当主となったレオンハルトを待っていたのは、凄まじい量の仕事と後継ぎとしての勉強の日々──
 彼が教会を訪れることはその後しばらくなかった。



◇◆◇



「ミハエル、この申請書を王宮税理課に提出してもらえるか」
「かしこまりました、レオンハルト様」

 レオンハルトは徹夜で作業を終えたあと、首を回して目をしぱしぱとさせながら一息つく。
 ようやくたまっていた今年度分の申請書を処理し終えたところで、先程メイドが運んできた紅茶を飲みながら領内の資料に目を通し始める。

「今年は不作の予想か。ミハエルを通じて各領主にいつでも減税の命を出せるように準備をしておくか」