レオンハルトが彼女に声をかけたのは、彼女が数百年に一度と言われるほどの強い力を持った聖女だからではなかった。
 ただ、2歳ほどの小さな子供が皆と遊ばずに大きな木の下でずっと座って眺めているのが不思議だったからだ。
 そして何より、彼の目には彼女の綺麗な淡いピンク色の髪が美しく映り、心惹かれた。
 当時7歳であり、いつか公爵になる後継ぎの身だったレオンハルトは、教会や孤児院のような自分とはまた違う境遇にいる人々のことを理解しようとしていた。
 それは哀れみや優越感に浸りたいわけではなく、彼の祖父であるヴァイス公爵が心優しく領民に寄り添った統治をしていたことに起因する。
 ただそれ以上にレオンハルトは不思議とこの目の前にいる少女のアメジスト色の瞳に吸い込まれそうなほど心を奪われており、それは恋と呼ぶにはまだ小さすぎてふわっとしたそんな感情だった。

「コルネリアは綺麗な髪をしているね」
「しすたーにもほめられるよ。こるねりあ、うれしいんだ」

 そう言いながら彼女は自分の傍らで枯れてしまっていた花に手をかざし、不思議な力を与える。

「──っ!」