アンリは植物研究室にて、白い花を咲かせる植物の球根部分の実験をおこなっている最中であった。
 球根部分の組織をつまみ、それを透明の液体に入れる。
 その容器を振ると徐々に液体は赤紫へと変化していった。

「違う……」

 目頭をつまんで目を閉じると、アンリは天井を仰いだ。
 何度やっても思う通りの結果にならない──
 アンリの目の端に青々とした葉を伸ばす植物が目に付く。

(ようやく蕾がついた……もう少しでこの花も咲くかもしれない)

 長期間咲かなかった花にいよいよ蕾がついてきて、今朝方それに気づいたアンリは心を躍らせた。
 彼の愛しい人──エリーヌを思わせるその花は少しずつではあるが、成長を見せている。

「アンリ様」

 研究室の入り口の扉から中を伺うように遠慮がちに覗いているエリーヌは、彼と視線が合うとちょこんとお辞儀をした。
 エリーヌの来訪で少々戸惑ったのか、テーブルの上の水をこぼしてしまう。

「ああっ!」
「わっ! 申し訳ございません! お手伝いします!!」

 二人は急いでテーブルに巻かれた水を布でふき取っていく。