「子供の頃に兄と遊んでいた時に、毒草に触れてしまいそのまま目をこすってしまったのです。その時から私は色が正しく視えなくなりました」

 エリーヌも医学書の一部で見たことがあったが、実際にその人と会うのは初めてだった。

(絵が好きだったのに、色が……見えない……)

 それはきっと自分の想像よりもはるかに苦しいことだったのだろう。
 目の前の彼は明るく話してはいるが、きっと苦悩して絶望したのではないだろうか。
 エリーヌはなんと声をかけてよいかわからずに、聞いてしまって申し訳ない感じて唇を噛んだ。

「お姉様、心配しないでください。僕は平気です」
「もう一つ、伺ってもいいですか?」
「ええ、いいですよ。なんでもどうぞ」
「もしかして、ここにいらっしゃるのは……」
「ご想像の通りです。僕は子供の時からこの部屋で過ごしています。もう十数年外の景色を見ていません。両親も兄さんも心配してここに足を運んでくれました。5年前までは……」

 先程までとは打って変わって彼の表情は一気に曇った。
 触ったら壊れてしまいそうなほど弱々しく、ゆっくりと語り始める。