昨日の夜そのことをロザリアに伝えると、替えのペンとインクを用意しておくとのことだった。

(こんなにいいペンでなくてよかったのに……)

 それはルジュアル細工のペンで、一目で高そうなそれとわかった。
 自分でひとまずは書物を使ってこの地方の歴史と伝統工芸品について勉強しようとしていたので、なんとなく高級品を使わせてもらうことに少し引け目を感じる。
 しかし、受け取ってしばらく考えながら歩いているうちに、これは逆にやる気になるのではないか、と考えが改まって気分も高まってくる。

(意外と形から入るタイプなのかもしれないわね)

 そんな自分分析をしながら、自分の部屋の近くの角に差し掛かった時に部屋のある壁の前で立ち止まる。
 それは前に夕食の席に向かおうとした時に躓いてしまった壁。
 今見ると、以前の壁のズレはなくなっており、綺麗な白い壁になっていた。

(ディルヴァール、直してくれたのね)

 彼の手際の良さに驚きながら、その壁に手を触れてみた。

(そういえば、この壁もちょっと変わった材質のような気がする)