やはり自分には愛の言葉を囁くなんて芸当は無理かもしれない、と必死で恥ずかしさをごまかすようにパンに手を伸ばした。
 スクランブルエッグ入りのパンを手に取ると、口に頬り込む。

「んっ!!」
「アンリ様っ!?」
「み……みず……」

 急いで食べたせいで喉に詰まらせてしまったアンリは、胸元を叩いて苦しそうに顔を歪める。
 エリーヌはテーブルの上にあった冷水をさっと取ると、彼に手渡した。
 受け取った水をこれまた急いで飲もうとしたアンリに、横から「慎重にゆっくりと!」と声がかかる。

 喉を大きく揺らしてパンと水を流し込むと、ふうと大きく息を吐く。
 落ち着いた様子を見て、エリーヌも胸をなでおろした。

「もう、びっくりするのでやめてください」
「いや、ごめん。ちょっと焦って食べ過ぎた」
「子供じゃないんですから」
「……ごめん、気をつける」

 事が落ち着くとなんとなく二人とも目が合った。
 ごくりとまた喉を鳴らしたアンリと、少々瞬きが多くなるエリーヌ。
 まだ朝の涼しさが風に乗って運ばれてくる。

「エリーヌ」
「アンリ様」