「はい、アンリ様に会うときも笑顔が増えましたね」

 その様子を想像した女はふっと笑って男に問いかけた。

「その笑顔にきっとアンリ様はさらに心の中で悶えているのでしょうね」
「そうですね、私が見る限り端正な顔立ちを崩してはおりませんが、確実に顔が緩んでいますし、声色も明るいです」
「エリーヌ様がこの屋敷に来て、変わっていっている。アンリ様が、そしてここが……」
「我々も含めて使用人も皆、エリーヌ様をよく思っている。それに、アンリ様が何より楽しそうだ」

 男は引き出しから紙を取り出すと、なにやらさらさらと文字を書き始める。
 そうしてその紙を女に手渡した。

「これは?」
「あなたが会いたがっていた方の居場所です」
「──っ!!」

 その紙にはある田舎町の伯爵家の名が記されていた。
 女はその紙を大切そうにしまうと、倉庫のドアノブに手をかける。
 その背中に男は言った。

「あなたに1週間のお暇を準備しましたから。少し早めの夏休みです」
「──かしこまりました。では、私がいない間はよろしくお願いいたします」
「ええ、しっかり休んできてください」