ある男は救護箱を手に廊下を歩いていた。
 主人の怪我の面倒を見るのも側近の役割であると彼は思っていたのだが、角を曲がった瞬間に対立意見を投げかけられる。

「そういう雑務はあなた様がやらなくても良いのでは?」
「おや、主人の怪我の面倒も見れなくてどうしますか」
「執事もメイドもおりますので」
「私で十分ですよ、このくらい」
「まあ、男の嫉妬は見苦しいですわよ」

 女がいる倉庫のほうへと向かうと男は倉庫の扉を閉めて背を預けた。

「それにしてもアンリ様が植物学会の研究遠征を途中で帰って来られるとは、初めてですね」
「ええ、あの方が『毒』よりも興味を持つなんて」
「エリーヌ様がそれだけ大切なのでしょう」
「……ルイス様が知れば、喜ばれるのでは?」
「そうかもしれませんね。あの方は誰よりもアンリ様の『自由』を求めていらっしゃる」

 男は近くにあった木の椅子に腰かけると、足を組んでテーブルに頬杖をつく。
 彼が少しリラックスしたのを見て、女は自らの黒髪を少し触って耳にかける。

「エリーヌ様は最近表情も明るくなられた」