「ゼシフィードが君を呼ぶなんて、しかも一人で来いなんてなにか企んでる! どうして俺を待たなかったの!? 俺が来なかったらどうするつもりだったの!??? その、つまり、何がいいたいかというと……」

 アンリは少しの間黙った後、今度は俯いて小声でいった。

「……嫉妬した」
「え?」

(それって、アンリ様は私のことが好きって……いやいやいや! そんな! 政略結婚の相手を、しかも何のとりえもない私を好きって、そんなことあるわけ……)

 顔をあげてエリーヌは自分の考えが間違っていることに気づいた。
 さっきの勢いはどうしたのか、というほどのしゅんとした縮こまりようでエリーヌに背中を向けた彼。
 だけどエリーヌには見えてしまっていた。

(耳が真っ赤……)

 顔は見えないが顔を背けている様子、そして耳を赤くさせて照れている様子を見て彼女は手を伸ばした。
 伸ばした手は彼の白いシャツの裾をちょこんとつまんでいる。

「あのっ! 私も好きですっ! その……たぶん」
「たぶんっ!?」

 予想外の言葉に振り返った彼の顔はやはり真っ赤で、さっと彼もエリーヌに見られないように袖で隠す。