彼に復縁を迫られたことも、歌声を戻すと言われたことも、そしてそんな彼をここにいるアンリが殴って自分を助けてくれたことも鮮明にエリーヌは思い出していった。
 その最中に壁に大きな穴をあけるほどの力でゼシフィードに怒りをぶつけた彼が、右手を怪我したことにハッとする。

「私は大丈夫です、それよりアンリ様の御手が……」
「俺はなにもないよ。ハンカチを巻いてくれたから」
「そんな、応急処置でしかありません。ロザリアに言って……」
「残念。ディルヴァールにもう処置されたとこ」

 包帯で綺麗に巻かれた手を掲げてはにかむ。
 ひとまずは大事に至っていない様子を見てエリーヌも胸をなでおろすと、そのまま頭を下げる。

「申し訳ございません。彼の策にまんまとハマってしまったようで、情けないです。アンリ様にもご迷惑をおかけすることになってしまいました。この処罰はなんなりと」

 彼に自らの処分を委ねるエリーヌは、アンリに向かって謝罪を続ける。
 シーツを握り締めながら、その手は震えており、唇を噛んで責めていた。
 そんな彼女の頬にひんやりとした手が添えられると、そのままゆっくりと顔をあげられていく。