そう思い立ったのだが、どうしても彼女を真っ直ぐに見つめて言える自信はない。

『愛している』

 そんな風に伝えてみた自分を想像するも、恐ろしいほどに速いスピードで顔を赤くしてしまう。
 意識して愛の言葉を囁こうとすると、激しい動悸に襲われて今にも倒れてしまいそうになる。

(でも、触れたい……)

 愛しい想いと恥ずかしさが交錯する中でアンリは一人、頭を抱えた。
 そうした想いに馳せているとふと、エマニュエル邸を出るときに言われたディルヴァールの言葉を思い出した。


『あなた様はもう縛られなくて良いのです』


 その言葉が脳内に響いた時、アンリの表情はふと真剣な面持ちに変化した。

(久々に王宮に行った──)

 あの屋敷を自ら出て王宮に向かったのはおよそ5年ぶりだった。
 遠征先で早馬によりロザリアからエリーヌが王宮夜会に向かうと聞いたアンリは、すぐさま仕事をディルヴァールに任せてエマニュエル邸へと戻った。
 待っていたとばかりにロザリアが迎え入れ、急ぎ着替えを済ませてその足で王宮へとむかった。

(あいつにはやはり少々きつめのお仕置きが必要か)