「今は。少なくとも今は、アンリ様のもとでの暮らしが楽しいのです。あたたかくて優しくて、それでいて……」
ゼシフィードは彼女の声色に唇を噛みしめた。
決して彼には見たことがない、見ることができなかった彼女の本来の姿。
美しさの中に隠された可愛らしいその様子を、彼は知ることがないまま恋人でなくなってしまった。
今、そんな元恋人は新しい存在を見つけている。
もう自分を見ていない、そのように感じた瞬間に彼の中でなにかがぷつんと切れた。
「なぜ、そのような声を出す……」
「え……?」
「お前は私のものだろうがっ!!!!」
「──っ!!」
振りかざされた大きな手はエリーヌの頬に真っすぐに向かってくる。
(ぶたれる……!)
エリーヌは咄嗟に目をつぶったが、いつまでたっても想定した衝撃は訪れない。
そのあまりの沈黙ぶりに目を開けようとした瞬間に、壁に何かが勢いよくぶつかる音がした。
「な……お前……」
「お久しぶりですね、殿下」
月明かりに照らされたシルバーの長い髪を垂らした長身の男は、エリーヌに背を向けて壁にぶつかって倒れているゼシフィードをみやる。
ゼシフィードは彼女の声色に唇を噛みしめた。
決して彼には見たことがない、見ることができなかった彼女の本来の姿。
美しさの中に隠された可愛らしいその様子を、彼は知ることがないまま恋人でなくなってしまった。
今、そんな元恋人は新しい存在を見つけている。
もう自分を見ていない、そのように感じた瞬間に彼の中でなにかがぷつんと切れた。
「なぜ、そのような声を出す……」
「え……?」
「お前は私のものだろうがっ!!!!」
「──っ!!」
振りかざされた大きな手はエリーヌの頬に真っすぐに向かってくる。
(ぶたれる……!)
エリーヌは咄嗟に目をつぶったが、いつまでたっても想定した衝撃は訪れない。
そのあまりの沈黙ぶりに目を開けようとした瞬間に、壁に何かが勢いよくぶつかる音がした。
「な……お前……」
「お久しぶりですね、殿下」
月明かりに照らされたシルバーの長い髪を垂らした長身の男は、エリーヌに背を向けて壁にぶつかって倒れているゼシフィードをみやる。