彼女の髪の躍動によって巻き起こった風が、カーテンをひらりとはためかせる。

「ロザリア」
「はい」
「夜会用のドレス、小物を見繕いたいのです。お手伝いをお願いできますか?」
「もちろんでございます」

 メイド歴12年の彼女は不敵な笑みを浮かべると、細く長い指を整えて両手を重ねる。
 長く美しく、そして清潔感たっぷりにまとめられた黒髪を落としながら、エリーヌに頭を下げた。



◆◇◆



 馬車が到着したのは王宮の中央に位置する正殿──
 業者が扉をゆっくりと開くと、その中から高いヒールを覗かせて一人の女性が降り立った。

(2年ぶりかしら)

 そう心の中で呟いた彼女は、水色のヒールで地面を鳴らしながらダンスフロアへとその足を向ける。
 通りすがりの者たちは皆、その女性の美しさに見惚れた。

 しかし、彼女の視線の先にはすでに『彼』が見えていた。
 彼はその女性の姿を見つめると、にたりとした表情を向けて彼女がこちらへ来るのを待った。

 ダンスフロアに近づくにつれて、人々はひそひそと囁いている。

「エリーヌ様よ」
「ああ。ゼシフィード様に婚約破棄された、あの」