夕食の席に向かうために部屋を後にしたエリーヌは、少し歩いた廊下でつまづいた。

「あっ!」

 危うく転びそうになったところをなんとか踏ん張って耐える。
 何か石でも転がっているのか、と思ったが廊下は隅々まで綺麗にされており、そのようなものは見当たらない。

(何かが引っかかったような気がしたんだけど……)

 足に違和感を覚えたエリーヌは辺りをよく観察してみる。
 すると、廊下の壁にわずかなズレがあり、そこに足を引っかけてしまったようだった。

(壁の継ぎ目?)

 年季が入った屋敷でもあったため、何かの拍子に壁にガタがきてしまったのかもしれない。
 そう思っていた矢先、後ろから声をかけられる。

「エリーヌ様、どうなさいましたか?」
「ディルヴァール」

 アンリの研究室のほうからやって来たディルヴァールは、両手に何冊もの本と分厚い書類の束を抱えている。

「お仕事お疲れ様です」
「ありがとうございます。夕食に向かわれる途中でしたか?」
「はい、ただ、ここの壁が壊れているのが気になって……」

 そう言いながら先程つまづいた壁を指さす。