今となっては昔のこととなった記憶を思い出してその栞を手に取ってみる。
 使い込まれたそれは丁寧に使っていたおかげで、新品のように美しかった。

(ゼシフィード様……)

 最後に見た顔が今もこびりついて離れない。
 あの軽蔑するような瞳は、エリーヌの心を打ち砕くのに十分だった。

(もうやめましょう、思い出すのは……)

 その栞に罪はないと思いながらも、過去を忘れるために、そして新しい一歩を踏み出すために別れを告げることにした。

(ごめんなさい、あなたが悪いわけではないのだけど、もうあなたを使うことはできないの)

 そう言ってエリーヌはゴミ箱にそっと優しく置く様に捨てた。

 そうして、パラパラとめくりながら過去の日記のページに目を移してみる。
 思い切って彼女は数十枚の日記のページをめくって捨てた。

(さようなら)

 そう心で呟いて夕食の席へと向かった──