元は就寝前に書いていたのだが、どうしてもその時の新鮮な感情や思いが夜にまとめて書くと薄れてしまうと思ったため、近頃は都度都度気づいた時に書くようにしている。

(ルジュアル細工やお店のことも書いて……それから、アンリ様とのことも……)

 お気に入りの藍色のペンを手に取ると、ノートにさらさらと書き記していく。
 ルジュアル細工の感動、町への訪問について、思ったことを細かく記していった。
 すると書いているうちに何か紙に凹凸があって書きづらいことに気づく。
 ページをめくってみると、そこには猫が刻まれた木の栞があった。

(あ……)

 それは元婚約者であるゼシフィードから贈られたものだった。


『これは……?』
『君はいつも日記を書いているだろう? それに公演などの移動時間も多い。本を読むときとかに使ってほしい』
『まあっ! 嬉しいです!』
『気に入ってくれたかい?』
『ええ、もちろんです! 猫ちゃん可愛いですね』
『ああ、君は猫みたいに愛らしいからね。君にぴったりだと思って』
『ありがとうございます。嬉しいです!』