自室に戻ったエリーヌは自分の高鳴った鼓動を抑えるのに必死だった。
 アンリの端正な顔立ちと甘く低い声、そして妖艶なほどの誘惑するような仕草と台詞に心をかき乱されていた。

(毎日あんな風に近づいて甘い言葉を言われたら、私の心臓がもたない……!)

 ゼシフィードの婚約者であった時期は2年ほどで、甘い雰囲気になることも少なくはなかった。
 だがしかし、アンリには大人の余裕のようなまた違った気配が感じられた。
 しばらく恋はいいか、とさえ思っていたエリーヌだったが、さすがに意識せざるを得ない。

(人間として嫌われてはいないようだけど……)

 もらったネックレスに触れてみると、先程のシーンが思い出された。

「──っ!!」

(アンリ様って意外と女慣れしている? 軟派な性格なのかしら?)

 ──エリーヌは夫に一目惚れされているとまだ気づかずにいた。



 アンリに贈り物を届けた後、夕食までは少し時間があったため、実家から持ってきていた日記を開いて今日の分を書き始めていた。