私は何も不自由はありませんので、ご心配せずお仕事に没頭なさってください。

 万一、私にできることがあればいつでもお声がけください。

 エリーヌ

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 手紙をそっと閉じると一つ大きく息を吐いて、その手紙を愛おしそうに撫でる。

「本当に君は……自分を低く見積もりすぎだよ」

 そう言って彼は机の一番上の引き出しにそっと入れる。
 綺麗でまっすぐな字は彼女が手紙を書き慣れている証。
 だが、ところどころ書く内容に迷いがあったのか、インクの滲みが気になった。

(私が出た国家式典というと、建国300周年のあれか)

 当時の事を振り返りながら、彼には一つ心に残っていることがあった。

(あの時の歌……あれは確か……)

 澄んだ歌声を式典会場に響き渡らせた少女の歌声は、何かどこか悲しそうで寂しそうな声だった。

(そう、あの少女は金髪で……華奢な……)

 アンリの脳内でその少女とエリーヌの姿が重なる。
 もしかして、あれは彼女だったのかもしれない。
 そう思い、彼は急いでディルヴァールの元へと向かった──