怒号を覚悟したエリーヌだったが、意外にも歓迎ムードの声がそこかしこからあがり、まるでアンコールを待っていたかのような盛り上がりようだった。

(よかった……)

 ゼシフィードと目が合うと、彼はエリーヌにすぐに舞台に上がるように目で指示をした。
 だが、珍しく彼の横には見慣れない人物がいる。

(ロラ……?)

 彼女と同じ歌手であり親友でもあるロラがゼシフィードの横にいたのだ。
 その光景を見てどうしてかエリーヌは胸がざわついた。

 だが、今は目の前の舞台に上がり、精一杯皆に歌を届けるだけ。
 それを思い彼女はピアノの演奏に合わせて、声を出した。


「────」


 その瞬間、ホールにいた者たちが皆首をかしげて目を細めた。
 違和感に気づき、驚いたのは観客だけではなかった。

(声が……出ない……)

 ピアノ奏者も異変に気付き、自然に歌い出しの部分を再度演奏する。
 それに合わせてもう一度エリーヌは歌った。

 ──いや、歌えなかった。

(どうして……?!!)

 ついに観客たちもざわつき始めて不穏な空気が漂う。

「なん…で……あー……あー……」