月が煌々と輝く夜──

 ある男とある女が裏庭の柱越しに顔を合わせずに会話をしていた。
 気心の知れた二人はどちらからともなく話を始める。

「本日もつつがなく終わりましたね」
「ええ、無事にエリーヌ様もお休みになりました」
「こちらはいつも通り研究室に引きこもっております。おそらく今夜も徹夜するのでしょうね」

 女は腕を組みかえ、柱にもたれかかった。

「今日も侵入者が一人いましたので、片づけておきました」
「相変わらず仕事が早いですね。王国警備隊には?」
「ええ、きちんと引き渡しましたよ。賊はすでに気を失ってましたので、つつがなく引き渡しを終えました」
「ご苦労様でした」
「アンリ様のご様子は?」
「仕事の進捗がまるで遅いですね。これはエリーヌ様への想いでたくさんとお見受けました」
「お慕いしているのですね、エリーヌ様のことを」
「ええ、そのようです」

 男は柱から去ろうとして身体を起こすと、言い忘れていたというように呟く。

「アンリ様がこの屋敷から出られることも近いかもしれませんね」
「はい、それまで私は、この屋敷を守るだけです」