「わあ、素敵な市場ですね!」
「ええ、市街地までは遠いのでこちらでまずはと思いましたが、いかがでしょうか?」
「素敵です! 雑貨屋さんなどもたくさんありますし、見るだけで楽しいです」

 実際に王都付近の大きな店にもあまり行ったことがなかったエリーヌは、買い物という行為そのものにも興奮していた。
 舞台やコンサートが多かった彼女は、あまり買い物自体もしたことがなかった。
 もちろん生活に必要な日用品などは使用人が買っていたが、同じ年頃の令嬢たちは皆流行りの店に行ってお茶をしたり、服を買ったりする。
 貴族御用達や貴族しか入れない店も多いため、令嬢たちも安心して遊べた。

「これ、すごく綺麗ですね」
「この地方で有名なルジュアル細工ですね」
「るじゅある?」
「何度か重ねて天然樹脂を塗って、そこに香り付きの塗料を加えたものを塗るんです。光沢と色合いが特徴の工芸技法です」

 太陽にかざしてその光沢と色味を確認してみると、確かに見たことがないほど輝いている。
 宝石とも違って複雑な色合いがその工芸品らしさを表していて、エリーヌは一目で気に入った。