「ああ、可愛いね。なんて花なんだい?」
「おなまえはわからなく……すみません」
「いいや、じゃあ次に会った時までに俺が調べておくよ」
「ほんとうですか!?」
「ああ、楽しみにしていてくれ……エリーヌ」
「はい!!」


 はっとそこで目が覚めた。
 エリーヌはベッドに倒れ込むように寝てしまっていたので、すっかりもう夜中になっている。

(思い出した……歌が好きになったのは、あの時、褒められたから……あのアンリさ……ま……っ!!!)

 そこまで心の中で呟いて彼の名が『アンリ』だと気づく。
 まさかとは思って記憶をたどってみると、すべてのピースがはまっていく。

 エリーヌは部屋を飛び出した──



 まだ研究室にいた彼に声をかける。

「君の歌は幸福の音色だね」
「──っ!! それ……思い出したの?」
「やっぱり、アンリ様だったのですね。あの方は……私に歌を、歌の喜びを教えてくれた、最初のお客様……」

 エリーヌは植物を眺めていたアンリに近づいていく。
 彼もまた、彼女の覚悟を聞くために向き合った。

「俺もつい先日思い出した。あの花をルイスが描いてて」