一気に覚醒した脳はまだ病み上がりの彼女の無事を認識し始め、そうして次にエリーヌに安心という感情を授けた。
 まだ痩せこけている頬も、ベッドに力なくだらんとしている手も、以前みた彼女とはまるで違う。
 それでも命が助かったという事実で、エリーヌは思わず激情の波に飲まれそうになる。

「なんて顔してるのよ」
「ごめんなさい、でも、でも、やっぱり嬉しくて。あなたの顔も雰囲気も昔に戻ったみたいで」

 ロラはその言葉を聞き届けると、自分で自分を嘲るように乾いた唇を広げる。

「殺していいわよ」
「え?」
「私はあなたを傷つけた。いくらゼシフィード様が好きだからって、まわりが見えなくなってた」
「ロラ……」
「それだけのことをしたのよ。私は、あなたに嫉妬して罠に嵌めて、苦しめて……とんでもない悪女よ」

 確かにそうなのかもしれない。
 彼女のせいでエリーヌは地位も名声も失い、政略結婚を無理矢理させられた。
 大事な歌声も失って、辛い思いもたくさんした。

(でも、全部がロラのせい?)

 それだけがエリーヌの疑問の一つだった。