長時間屈んで足がしびれそうになってきたエリーヌが、足を組み替えたその時だった。
 衛兵たちが一斉にどこかに向かって走っていく。

「──っ!」
「ふふ、いまだにこの時間は変わってないか。この時間はね、騎士長への報告の時間なんだ。ほんの少しだけここに死角ができるんだ。いくよ!」
「は、はいっ!」

 走り出したアンリの後を追って、エリーヌも王宮内に足を踏み入れた。


 走った先には大きな丸い柱の建物があり、その階段を一気に地下へと下っていく。

「エリーヌ、下がっていて」
「はい」

 アンリは地下牢の入り口にいる衛兵に向かってゆったりと歩いていく。

「ん? 誰だ?」
「ゼシフィードだ、ロラの牢屋の鍵を開けろ」

 その瞬間、地下室の空気が一段と冷えた気がした。

(え……アンリ様、どういうことですか、それは? なぜゼシフィード様だと……)

「ふざけるな! なんだお前! 恐れ多くもゼシフィード様をかたるとは」
「おや、やはりダメか」

(いや、さすがにダメでしょう……)

 むしろなぜそのゼシフィードだと言い張ることができると思ったのか、エリーヌは夫の無謀な策に頭を抱える。