「──っ!! それって」
「ああ、ルイス。お前も使ったことあるだろう? 私との悪戯の時に」

 エリーヌは少し首をかしげて二人の表情を交互に見つめている。

「王宮に昔住んでいた頃、子供たちで遊ぶ時の定番の鬼ごっこ。それをしている時に王宮内を巡りまくったからな」
「兄さんは一番あの隠し通路だらけの王宮を把握していましたね」

 王族でもある彼らは王宮に数年住んでいた時があった。
 その時の遊びといえば専ら大人たちに悪戯をする鬼ごっこ──
 エリーヌは納得したように一つ頷くと、アンリの瞳を見つめて真剣に聞いている。

(ああ、可愛い……そんな目で俺を見つめて、俺のこと尊敬したかな?)

 悲しいかな。
 エリーヌはただ、そうした過去も夫にはあったのだなあと考えながら見ているだけだった──



◆◇◆



 王宮の裏手に回り込んだエリーヌとアンリは、衛兵に見つからないように屈んで兵の動きを観察している。
 もうここに張り付いて数十分になっていたが、彼は動こうとしない。

「アンリ様、これは何か待っているのですか?」
「ああ、まあ見ててくれ」