エリーヌの脳内である日の言葉がよみがえる。


『あの子には自由になってほしいんだ。もっと、もっと彼は外の世界で……』


 アンリの言葉を伝えたエリーヌに、ルイスは目を見開いた。

「兄さんが、僕にそんなことを……」
「はい、二人とも同じなんです。アンリ様もルイスさんもお互いのことを大事に思ってて、自由になってほしいと思ってます」

 エリーヌはルイスの赤い瞳を見つめて、微笑んだ。

(そう、ちょっと言葉が足りないだけ。思いあいすぎてうまくかみ合ってないだけ。それだけ)

 エリーヌは持っていたマドレーヌをルイスに差し出す。

「食べますか? ルイスさんも」

 エリーヌの言葉に、ルイスは少し救われた気がした──