エリーヌは廊下を歩いていた。
 その手には食事のプレートがあり、それは”彼”のものだった。
 白い壁の少し柔らかい部分を押すと、その壁は扉へと変化して地下室への入口に変貌する。
 彼女は慣れた手つきでその扉をくぐると、少しばかりだけある階段に足を踏み入れた。

「お邪魔します」
「どうぞ」

 階段の先にある扉をノックして入ると、その”彼”はいた。
 いつもの書斎の椅子ではなく、古い簡易的な丸椅子に腰かけた彼は、テーブルに置かれた植物をじっと見つめている。
 左手に鉛筆を持ってもう一方の手にはデッサン用紙が抱えられていた。

「今日は何の植物ですか?」
「ユリ科の植物だけど、うちの庭で自生しているやつだからか、どうにも野性的です」
「ふふ、裏庭はよく植物が育ちますしね」
「ええ、僕の知ってるユリよりも背が高いです」

 花瓶に入れられたユリは地面に置くとエリーヌの腰あたりまで来てしまうほどの大きさ。