「ああ、自分で植物を育て、実験して、異国の植物の研究もした。それでもまだ見つからない。彼の画家になりたいという夢を奪ったのはこの俺だ。俺が必ず見つけなければ……」

 アンリは早口で自分に言い聞かせるように語る。

(ああ、そうか。だからこの地方にいるんだ)

 ここは王都とは違い植物の群生地としても有名であった。
 歴史的に有名な数々の植物研究者たちがこの地域で育ち、研究を重ねた場所──
 だから彼はこの場所にいて、この場所にこだわって離れない。

(過去が彼をこの土地に、そして『毒』に縛り付けている)

 エリーヌは『毒』にからめとられた彼を見て、自分自身を重ね合わせた。
 歌に縛られ、歌声を失って何者でもなくなった自分。
 彼女は初めてそんな自分の事情を打ち明けてみたいと思った。

「アンリ様、私の話を聞いてくださいますか?」
「ん? ああ、もちろん」
「私は歌手でした。この家に来る前日にどうしてか気を失って、気がついたら歌声が出なくなっていたのです」

 ディルヴァールの調書によって彼女が有名な歌手であることは知っていた。