だが、王族の衣装を身に着けて顔を伏せていたのであまりどのような人物なのかはわからなかった。

(毒……私、実験台とかにされるのかしら?)

 エリーヌの頭の中では怪しいガラス瓶に入れられた毒物を飲まされる光景が浮かび、身体を震わせる。
 しかし、ふと別の事も頭に浮かんだ。

(ああ、そうね、それくらいのほうがもう恋もしなくていいかもしれないわね)

 婚約者にも信じてもらえず、親友に裏切られ、恋人を奪われた彼女はもう生きる気力を失いかけていた。
 少なくとも政略結婚なら相手にも恋愛感情はないだろう、と考えた。

(私は夫を支えればいい、私はもう恋をしなくていいんだ……)

 彼女はそんな風に考えているうちにうとうとと眠気が来てしまい、壁に寄りかかって眠った──



 翌朝早くに衛兵が乱暴に牢屋を開ける音でエリーヌは目が覚めた。

「おい、今すぐ馬車に乗れ」

 戸惑う暇も与えられないまま馬車に投げ込まれ、一時間ほど馬車に揺られた。

(かなり森のほうへとやってきたわね……)

 王宮から出て市街地をしばらく走っていたが、数十分もすればずいぶんと田舎道を走っている。