社交界の舞台で歌う”彼女”は、金色で長く美しい髪を揺らめかしている。
 美しい碧眼を輝かせたその表情は、まさに歌の体現者となっていた──
 数多の令嬢や令息、そして王子は、彼女の透き通った透明感のある歌声に耳を傾ける。

「やはり、エリーヌの歌声は素晴らしいわ」
「ええ……、透き通った繊細な声で音程も外れない……」

 夫人たちがうっとりしながら、エリーヌの歌声に聴き惚れていた。
 彼女の歌は流れるように人々の耳に届き、観客の心を捕らえて離さない。

「エリーヌの歌声はもう国の宝だ」

 この国の第一王子であるゼシフィードもそのように告げる。

 彼女──エリーヌ・ブランシェはこの歌声から『希代の妖精歌姫』と呼ばれていた。



「ふう……」

 本日の一回目のコンサートを終えて、エリーヌは裏庭で一人静かに休息をとっていた。
 煌びやかな舞台に立ち、大きな歓声を浴びることが多い彼女は、合間に自身の精神統一も兼ねて静かな場所で休憩時間を過ごすのが常だった。