マリーはトモがあっけに取られている姿を横目に背負ったナップザックから服を取り出した。
流石にぼろぼろの服で連れ回すわけにはいかないだろう。 男性陣は着替えが始まるということですでに周囲に散っている。

マリーはナップザックから取り出すと服を拡げ、まじまじと見た。
そしてトモに視線を移す。

「うーん。サイズは合わなそうねぇ。 紐で縛るしかないか」

 マリーは女性にしては背が高く、変身前のトモでも丈があまりそうだった。丈だけではなくほかの部分もトモには全体的にボリュームが足りなそうではあったが。
 そんなやり取りのあと、服を脱いでいく。
 トモはマジックコートを脱ぐなんていうのは初めてのことだが、継ぎ目やホックがないことにマリーは気付く。
 そのおかしな服にマリーは首を傾げた。

「トモちゃんこれ。 どうやって着たの?」

 この問いに、正直に答えるわけにもいかず苦笑いで「記憶、ない」と返すほかなかった。

 現在変身が解けないこともあって、マリーのナイフで裂いていくことにした。
 わき腹の辺りに下からナイフを入れるとすんなりと切れていった。

(やっぱり障壁が機能してないよね。 なんで消えないで残ってたんだろう?)

(解析中ですが、何らかの外因があったかと推察されます)

 トモの疑問にクーリガーは現状は不明と返すのみだった。

 ナイフで服を裂いたことで、トモの肢体が露わになった。
 傷がないかとマリーは確認するが特に問題ないようだ。
 
「へーきれいね。 私すぐおなかに肉がついちゃうから羨ましいわ」

どうやらマリーはトモの身体のラインのきれいさが羨ましいらしい。
しかしトモは内心普段の自分の多少だらしないスタイルを思い出し、恥ずかしくなるのだった。

トモはマリーの言葉をごまかすように、身体を見回す。
やはり魔法少女の時の身体だ。ビルを飛び越え、怪力を発揮する身体。
しかし、素肌を見たのは初めてのことだ。
何となくはわかっていたが、とても均整の取れた身体だ。
思わず普段とは違う肉体に見惚れてしまった。

だがトモは変身後とは言え先ほどから身に覚えのない違和感を感じるのだ。
 背中の下、お尻の上の辺りが妙にそわそわする違和感。
 それは違和感だけではなく服を脱いだことによる解放感というものに近いものだ。
 首を回して背中に眼をやる。
 それは視界の端に黒い縦線を作っていた。

「なんぞ? これ?」

 左手で掴んでみると、触感を背中の辺りに感じる。
 そのまま振ってみるとやはり背中に感触が走った。
 恐る恐るトモは目線を黒い線の根本の方に移していく。

 それは自分の背中から生えていることが確認できたのだった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 予想外の出来事にトモは絶叫した。

「どゆこと! どゆこと! どゆこと! どゆこと! どゆこと! どゆこと! なんじゃこら! なんじゃこら! なんじゃこら! なんじゃこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 トモはパニックになる。
 ハプニングが重なり、とうとう容量に限界を迎えたようだ。
 その様子にマリーがびっくりして話かける。

「そんな慌ててどうしたの? かわいらしいしっぽじゃない? ワーラットのしっぽでしょ? ちょっと先端の形が特徴的だけど」

その言葉にぴたりと止まるトモ。

「ワーラット?」

 聞きなれない単語にトモは聞き返す。

亜人(デミヒューマン)の一種ね。 ネズミの獣人。 耳が特徴ある種族だけどあなたはクォーターかしら? ふつうの人間の耳ね」

 マリーは特にしっぽに対して気にしていないようだ。
 たしかにマリー自体耳に特徴がある。
 あまり身体的特徴にはこだわらない世界なのかもしれない。
 それでも今までなかったものが急に生えればびっくりするものだが。

 トモはまじまじとしっぽを見つめながら考える。
 しかし、この尻尾はネズミの亜人というよりもむしろ、

 (これ悪魔のしっぽよね)

 全体的に細いのは確かにねずみっぽいが、先端に特徴がありすぎた。
 ハート型の突起がついているのだ。
 冷静になって考えても自分の身体から生えていることを受け入れられそうにない。
 その様子にクーリガーが一言。

(非正規どころか闇落ちしましたね)

 その容赦のない一言に「はは」と乾いた笑いが漏れ出した。

 いつまでも裸でいるわけにいかないとマリーが服を着替えさせてくれた。
 煤に汚れた顔は拭ってもらい。薄緑色の狩猟服を上下着させてもらう。丈は袖口を縛ることで調整したが、少々不格好だ。
 最後にと言って、マリーが背後に回り小さくズボンに穴をあけてくれた。
 しっぽ穴だ。
 しっぽがあると認識してからはどうにも外にだしていないと座りが悪いのだ。

「マリーさん? いいの?」

「いいの。 いいの。 どうせ森歩きしたらすぐぼろぼろになっちゃうし」

 一通り支度を終えると男性陣が帰ってきた。

「おっ! きれいになったじゃねーか! それで早速でわりーんだが恩寵《ステイタス》の確認がしたい。連れてくにしても戦力がわからんと判断がつかん」

「ステイ、タス? なにそれ?」

「なんじゃ? この嬢ちゃん恩寵《ステイタス》も覚えちょらんのか?」

髭もじゃの男――ゲラルドが初めて口を開く。

「ほんとに記憶というかこの世界の常識が分からないみたいね。 恩寵っていうのは、この争いの絶えない世界で神々が与えた戦いの力の一つなの。 それがあることで魔物や魔族と私たちは戦えるのよ」

「魔物? 魔族? なにそれ? 美味しいの?」

「あー魔物も魔族も解らないか……、あと食べちゃだめよおなか壊すから、とりあえず私たち人間種族とは違う神様の眷属たちと私たちは争いを続けてる。その為の力ってわけね。 それを見たいのだけでいいかしら?」

どうやら魔族や魔物はたべられないらしい。そのやりとりに男性陣は頭を抱えている。トモもアホだが、マリーも大概のようだ。

(クーリガーどう思う? なんかよくわかんないんだけど)

トモは早々に思考放棄してクーリガーに助けを求める。
その問いにクーリガーは呆れながら答えた。

(はぁ……、現状断っても、進展はありません。悪魔のようなしっぽが生えてるだけで魔族って疑われているわけでもないようですし、一旦受けてみるしかないでしょう)

クーリガーの言葉にトモは、マリーに恩寵を見てもらう様にお願いした。

マリーが何やら呟くと、クーリガーが再起動した時に似た四角いウィンドウが宙に浮かぶ。
それにはこのように表示されていた。


 POW:0 CON:0 SPD:0
 DEX:0 MANA:0 LUC:0

称号:§Θn 神技:§Θn クラス:なし 主神:×××

その内容に、四人組は愕然とする。

「ステータスオール0ってなんだこれ? マリー見たことあるか?」

ジェイルが深刻な表情で話マリーに聞いている。

「ううん。でも、神から見捨てられし者ってのは昔いたってきいたことがある。
でもトモちゃんは……、主神の欄が隠されてるだけで一応加護は与えられているのね……」

「それに称号や神技《スキル》欄にも隠蔽された跡があるぞ?」

痩躯の男キリアンが二人の会話に割って入る。
いままでトモに興味はなさげであったがその恩寵には興味が惹かれたらしい。

「しかし何かあるにしてもオール0じゃ。すぐにおっちぬのがオチじゃぞ?」

トモの華奢な体躯を見て、ゲラルドは心配そうに話す。

どうやらトモは彼らにとって相当にか弱い生き物と認識されたようだ。
庇護の対象として見られている。
いくら怪しいと言っても、か弱い少女である。

「トモを護衛対象として、森を出る。 転ぶだけでも死にかねない貴重品として扱ういいな?」

 ジェイルがそういうと、全員が頷き移動を開始した。
どうやらこの世界は恩寵がなければ残機性ゲームの主人公並みにすぐ死ぬ認識のようだ。
木の根が出っ張るところですら、マリーはトモが崖を歩く姿を見るようにはらはらと見つめていた。心配しすぎだとトモは思った。

トモは移動中、自分の恩寵がオール0という事だがマリーたちのステータスはどうなのか気になって聞いてみる。

「私以外の三人のステータスは教えるのはマナー違反だけど、私のは見せてもいいよ? はい」

そういうと、マリーは金色カードを差し出してくる。
トモが「これは?」と聞くと、冒険者カードというもののようだ。
色は階級を表し、自分たちは上から四つめのゴールドランクの冒険者だという。
その頂点は白銀獅子、白銀鷹翼、白銀と続くらしい。
白銀以上は最早英雄の領域なのだという。
そして冒険者カードには偽造防止のために持ち主のステータスが記載されるのだ。

冒険者カードには、

 POW:127 CON:160 SPD:148
 DEX:178 MANA:257 LUC:195

称号:― 神技:高速詠唱《ラピッドキャスト》、杖術下位、 クラス:魔術師 主神:ケレス

とトモに比べて充実した内容が記載されている。
マリーは上から四番目の冒険者のランクということでそれなりにステータスは高い方なのだろうがそれにしても、三桁と0では大きすぎる差があるようだ。
この世界ではトモはほんとに一般人並みの力もしくはそれ以下の力しかないのかもしれない。

 マリーたちはその後、移動の道すがら、いろいろと自分たちの状況を共に教えてくれた。

 森で火事があったこと。
 自分たちがそれで調査に来た冒険者であること。
 そして、火事の原因が二つあると解ったこと。
 そして一つ目の原因がトモであること、それで確認のためトモを起こしたそうだ。

 トモはこれまでの経緯で、彼ら冒険者にはなにも覚えていない不思議な亜人の少女として見られている。
 情報はこれ以上集まらないと判断し、一旦引き上げるついでにトモを保護するとのことだった。
 それにもう一つの原因には接触するのも危険だとも思ったようだ。
 現状もう一つの原因は森を荒らしまわっており、手が付けられない状況のようだ。

 出会わずに森を抜けたい。そう全員が願っていた。
 だがその祈りは唐突な轟音で、かき消されることになったのだった