「クーリガー? 準備はいい?」

「マイスター。 いつでも大丈夫です。 皆さん位置についております」

「了解。 じゃあ橋を落とそう」

 トモは騎士団本部がある中州の古城に繋がる大橋の上空、雲の上で見下ろしながら立っていた。
 飛行魔法も長射程の狙撃系魔法も出力の振れ幅に不安はあるが、使用可能だ。
 大気のマナの干渉を抑えるため、旋回には難がある。
 空中戦は未だに無理だとクーリガーからの念押しがあったため、今回は高高度から出力最大で魔力弾を射出し広範囲殲滅後、残敵を近接戦闘で処理するという戦法を取ることにした。
 規格外の魔力による王道とも、ごり押しともいえる力技だ。
 リリアナは正気の沙汰ではないと難色を示したが、戦力分析にかけてはクーリガーに一任しており、頷くほかなかった。

 作戦の合図は、トモの一撃だ。その号砲を皆待ちわびていた。

「星の瞬きよ―― 命を照らすその輝きよ―― 集まり光さす道となれ!」

 トモは全力の一撃を放つため大剣を天高く掲げ、詠唱を開始する。
 その詠唱が進むたびに、周囲のマナを無作為に取り込み剣先に大きな光の球が形成されていく。
 トモの身体の数十倍はあろう巨大な光球が出来上がると、その光球はどんどんと小さくなっていく。
 周りに漂う巨大なエネルギーをトモ自身の強大な魔力で強引に圧縮しているのだ。
 トモは集中し、眼を閉じる。
 やがて臨海に達すると、集まった魔力は飴玉ほどのサイズになった。
 大剣の切っ先に浮かぶそれを、眼下の橋へと向ける。
 そして、トモは叫んだ。破壊の権化たるその魔法の名を、

「ブレイカースターロード!」

 大剣の切っ先からその球体は発射された。
 音を置き去りにして、瞬きよりも早く橋にぶつかった。
 その軌跡はまさに星の道、光の残像が残り続けている。
 しかし、その軌跡を認識できたものはトモだけである。
 それが放たれた瞬間辺りは昼の光より明るい光に包まれ、無音の世界が広がったのだ。
 暴力的な光の後には橋は欄干まで跡形もなく消え失せ、橋と中州を分かつ門も見る影もない。
 そこにあった物体は、その存在があった痕跡さえも残すことなく消えていた。

 そして、空洞となった世界には大量の空気が流れ込む。
 それは暴風となり湖畔は高波で大きく荒れた。
 そして遅れて飛来したエネルギーの着弾音は終末のラッパの音の様に辺りに鳴り響いた。
 その破壊の音は本能的に聞いたものを恐怖させたのだった。

 これが神と戦った魔法少女の全力である。
 神代の英雄と並ぶ偉業を行った幼き少女の力であった。



「とんでもねぇばけもんっすね」

 古城の地下から忍び込もうとしていたリリアナたちは、トモの砲撃を見て身震いし、その衝撃ですぐに動けずにいた。
 アリシアは見たままを口にし、あんぐりと口を開けている。
 三人は顔を見合わせその意見には同意したのだった。

 トモがあれほど怒りを露わにするのは初めてのことだ。
 むくれることは何度もあったが、正直、リリアナも何ならギルドも舐めていたのだ。
 彼女が本気をだせば、世界と戦える。それほどの脅威であることをここに確信することになった。
 ギルドは今回かなり危ない橋を渡っていた。
 たまたま先にトラの尾を踏んだのは騎士団だったが、手をこまねいて戦争に発展していれば、弱者の味方を進んでするトモが敵側に回っていてもおかしくなかったのだ。

 三人は背筋を正し、古城へ侵入することにした。
 少しでも早くほかの被害者を探すべきだ。
 怒りの矛先を変えられたら、命に係わる。
 それだけではない。地図が物理的に書き換わる事態になりかねないのだ。

 おそらくトモだろう。
 爆音とともに何かがぶつかった階上から聞こえた。
 苔むした階段を三人は足早に登り、城内の探索を開始した。