薄暗い地下街の屋内は更に暗い部屋だった。
 マッチを擦ったような光がでると、ろうそくを持った老シスターの陰気な顔がぼぅっと映し出される。
 その姿は闇に浮かぶ、幽鬼のようであった。

「ひぃ……」

 毎度のことながら蚤の心臓を持った魔法少女は悲鳴をあげそうになる。
 だがその瞬間、リリアナが魔法を唱えると辺りに光が溢れた。
 短くない期間一緒に歩いたエルフは何となくこの後の展開が読めて先んじて手を打ったのだった。

 暗い教会内が照らされると、二人の人影が奥に見えた。
 その姿にリリアナは声を掛ける。

「先についていたのですね。アリシア、ティル」

 その言葉に、二人はそれぞれ挨拶をする。

 一人目はネズミのしっぽに大きな丸い耳、赤毛で快活そうな釣り目の少女。

「どうもアリシアっす! 今回ギルドの連絡と諜報役になるのでお見知りおきくださいっす!」

 もう一人は金髪に大きな杖を携え、柔和な笑顔を向ける人間の少女。

「ティルといいます。 私も連絡と諜報役です」

 アリシアは見るからに元気娘といった服装で、話し方もそういった雰囲気だ。
 ティルは落ち着いた様子であった。

 その挨拶におずおずと、トモは答える。
 いきなりの知らない人とのあいさつは苦手であった

「あ……どうも、トモっていいます」

「はぁ、まったく」

 その姿にリリアナはため息を漏らした。

 アリシア達は老シスターに外の見張りを頼むと現状の報告をし始めた。

「実際のところ街には変化はないみたいっす。 ただ、スラムの子供が最近減ってるらしいんすよ」

 不可解な情報に首を捻りながらリリアナが聞き返す。

「子供が? アメーバに関係あることかい?」

「それは何ともっす。 ただ身なりのいい男がスラムを歩いてることが増えたらしいっす」

「露骨に怪しいねぇ。わかったそこは調査しとくよ」

「すいませんっす。 それで僕らはこの後、ドマ方面からもう一度ラウンガーデンに入ればいいんすね?」

「二日ぐらい森の中を歩いた後は街道から真っすぐ戻ってきてね」

「了解っす。 お二人のギルドカードをお借りしても?」

「トモの分は隠蔽できないから心付けでどうにかしたよ。 はい。 こっちは私の分」

「お預かりするっす! このあと、聖女様の使いの方がここにくるので対応もお願いするっす!」

 二人の話が終わると、リリアナはトモと自分に掛けた変身魔法を解いた。
 そしてその姿をティアはまじまじと観察し始める。
 そして納得がいったような顔をすると、変身魔法をアリシアと自分にかける。
 そうすると、変装前のアリシアはトモの姿に、ティアはリリアナと同じ姿へと変わっていた。

 トモの姿をしたアリシアが話し出す。

「それじゃ私たち行きます。 なるべく注意を引くようにするので、あまり上層には近づかないようにお願いします」

「あまりお話もできなくてすまないね。じゃあ行ってきます」

 二人はしゃべり口調もそっくりに真似ていた。
 とても数分喋っただけとは思えない。
 トモはその変身に関心しほぉぉぉぉと声にならない感嘆をあげていた。

 二人は変身を一度解くと足早に教会を出ていった。
 老シスターは二人が去ると、教会の奥に案内しお茶を振舞ってくれた。
 協力者らしいが、何もしゃべらず不気味な老婆だ。
 リリアナは気にした様子はないが、トモはどうにも落ち着かない。

「なんでこのおばーさんなんも話さないの?」

「おそらく、近衛侍従だよあのばーさん。 見ざる聞かざる話さざる。三禁を持って主に仕える最上級の侍従ってこと」

「へぇそんなのがいるんだ……。 って主って誰の?」

「そりゃ聖女様のだろうね。 まぁ気にしなくていいよ」

「気にしなくていいよって! わたしだって今回の当事者じゃん」

「どうせトモは難しい話は分からないでしょ?」

 リリアナは意地の悪い顔をしてトモをからかい、お茶を啜る。
 お茶うけに出された菓子はスラムのさびれた教会で供されるにしては上等な焼き菓子であった。
 二人は焼き菓子のさっくりとした食感に舌鼓を打ちつつ更なる来客が来るのを二人は待つのであった。