夜の帳が明けるころ、朝霧に気ぶる草原の端にトモ達は投げ出された。
起き抜けの冷たい外気は、背筋を震わせる。
日の出で薄紫に滲む地平線は、強い光でトモの眼を焼いていた。
「うぅん……。 もう着いたの?」
眠気を噛み殺しトモが声をあげると、リリアナはすでに支度をはじめていた。
その姿に少しの違和感をトモは感じる。
「あれ? 耳は?」
よく見ると、特徴的な長い耳が普通の人の耳になっているのだ。
リリアナは耳に手をやり、答える。
「あぁこれかい? ちょっとこの国の中では隠しておくよ。トモも尻尾と髪の色を別の物に見えるようにしといたから気を付けて、実際には見えないだけでそこにあるから」
そういわれるとトモは自身の後ろに首を向ける。しっぽを動かしている感覚はあるが確かに見えないのだ。
不思議だな、とのんびり考えていたが、少し考えて怒りがこみあげてくる。
「こんな便利な魔法あるなら、あの門番に好き勝手言われる必要もなかったんじゃ? というかこんなほかの街でも隠せばよかったような……」
しっぽに関しては悪ガキに引っ張られたり、獣人と蔑まれたりと今のところいいことが一つもない。
だから、隠しておけるなら隠しておきたいのだ。
トモは見えないしっぽを怒りに任せぶんぶんと振る。そよ風が起きるが、リリアナは意に介した様子は見えなかった。
「まぁ君は目立つのが仕事でもあるから、諦めてくれたまえ。あと、そのしっぽ大人しくしててね」
「っく……」
暖簾に腕押し。悪いと思ってない相手に怒りをぶつけても無駄なのだ。
怒りを湛えた眼でトモは睨むことしかできなかった。
出立の際に、ドライアドからシルフの歌という魔法を教わった。
トモが喚いていた間、シルフという風の精霊がアメーバの場所を把握しているという話があった。
この魔法はシルフを呼ぶ魔法。多少は探索効率が上がるだろうとのことだった。
そこまでシルフの噂話は信用ならないらしいが、やみくもに探し回るよりはいくらかましだろう。
陽が完全に顔を見せ、薄暗さがなくなると草原の全体が見えてきた。
小高い丘の先に白い城壁が見える。
そこがウィステリアの首都、ラウンガーデンとのことだった。
女神の愛した芽吹きの庭と形容される美しい都市なのだと、リリアナが言っていた。
華やかな街を想像しトモは期待に胸を膨らませる。
今まで回った場所は山や森にほど近い村がほとんどでこういった華やかさとは無縁な場所がほとんどであった。
灰色の旅路に飽いていたトモとしても今回は少しは観光のしがいがあることを期待していた。
平原を進み街道に出ると、まばらながら人通りが見えた。
行商人のほかは、豪奢な馬車に乗ったものがほとんどでそれなりに裕福そうなものが多い印象だった。
トモたちのような徒歩で進む者は少ない。
通行者たちには少々偏りがあるようだ。
「まぁここは巡礼者の道だからね。修行僧でもなければ裕福な者が物見遊山でしかこないよ」
トモがきょろきょろしているとリリアナが説明してくれた。
聖地巡礼というのはこの世界における旅行のようなものらしい。
娯楽が少ないことに気付いたトモは納得し道を進んでいった。
丘を登っていくと街の城門が見えてきた。
門に近づくと、トモはリリアナに普段使っている者と違うギルドカードを渡された。
そこにはこの世界の文字でプリーストの職が記載されていた。
街に入るときにも偽るつもりらしい。
「これは兵士様お勤めご苦労様です。 巡礼の旅でこちらへ参りました。どうぞお通しください」
そういうと、兵士は身分証を受けとる。二人分の身分証を受け取ると簡単な確認のみですぐに通してくれたのだった。
随分と国境での対応とは違うようである。
それには秘密があるようだが、リリアナはその話はまた後でとのことだった。
城門を抜けると白い石畳の道の中央と両脇には色とりどりの花々が咲き誇っていた。
花々の香りは芳しく香り、まさに評判通りの街のようだ。
「それで? ギルドに行くの?」
「いいえ。 そもそもここのギルドはちょっと特殊でね。 どちらかといえば騎士団の下部組織にちかいのよ」
「あ、あぁ……」
移動中に簡単にクーリガーから状況を聞いたトモは、その言葉に納得した。
いきなり敵のど真ん中に突っ込むのはあまりに無謀だ。
「一応アジトの用意はできてるわ。寝床に困るってことはないから安心して」
美しい街並みを歩きながら、トモはリリアナについていく。
だがいつしかうつくしい色合いは消え失せ、花の香りは汚物のにおいに塗れた吐き気のする匂いに変っていった。
この街は階層構造になっているらしく。横道を抜け下へ下へと下っていく。
いつしか女神の庭園ともうたわれた街並みは薄暗い宵闇の街へと変貌していた。
浮浪者がたむろする広場を抜けた先に、一軒のそれなりにしっかりとした建物が見えた。
どうやら教会のようだ。
リリアナはその扉をノックすると一人の老いたシスターが現れるのだった。
そのシスターはリリアナを一瞥すると、無言で中に通したのだった。
トモはその姿をびくびくとついていくのが精いっぱいだった。
起き抜けの冷たい外気は、背筋を震わせる。
日の出で薄紫に滲む地平線は、強い光でトモの眼を焼いていた。
「うぅん……。 もう着いたの?」
眠気を噛み殺しトモが声をあげると、リリアナはすでに支度をはじめていた。
その姿に少しの違和感をトモは感じる。
「あれ? 耳は?」
よく見ると、特徴的な長い耳が普通の人の耳になっているのだ。
リリアナは耳に手をやり、答える。
「あぁこれかい? ちょっとこの国の中では隠しておくよ。トモも尻尾と髪の色を別の物に見えるようにしといたから気を付けて、実際には見えないだけでそこにあるから」
そういわれるとトモは自身の後ろに首を向ける。しっぽを動かしている感覚はあるが確かに見えないのだ。
不思議だな、とのんびり考えていたが、少し考えて怒りがこみあげてくる。
「こんな便利な魔法あるなら、あの門番に好き勝手言われる必要もなかったんじゃ? というかこんなほかの街でも隠せばよかったような……」
しっぽに関しては悪ガキに引っ張られたり、獣人と蔑まれたりと今のところいいことが一つもない。
だから、隠しておけるなら隠しておきたいのだ。
トモは見えないしっぽを怒りに任せぶんぶんと振る。そよ風が起きるが、リリアナは意に介した様子は見えなかった。
「まぁ君は目立つのが仕事でもあるから、諦めてくれたまえ。あと、そのしっぽ大人しくしててね」
「っく……」
暖簾に腕押し。悪いと思ってない相手に怒りをぶつけても無駄なのだ。
怒りを湛えた眼でトモは睨むことしかできなかった。
出立の際に、ドライアドからシルフの歌という魔法を教わった。
トモが喚いていた間、シルフという風の精霊がアメーバの場所を把握しているという話があった。
この魔法はシルフを呼ぶ魔法。多少は探索効率が上がるだろうとのことだった。
そこまでシルフの噂話は信用ならないらしいが、やみくもに探し回るよりはいくらかましだろう。
陽が完全に顔を見せ、薄暗さがなくなると草原の全体が見えてきた。
小高い丘の先に白い城壁が見える。
そこがウィステリアの首都、ラウンガーデンとのことだった。
女神の愛した芽吹きの庭と形容される美しい都市なのだと、リリアナが言っていた。
華やかな街を想像しトモは期待に胸を膨らませる。
今まで回った場所は山や森にほど近い村がほとんどでこういった華やかさとは無縁な場所がほとんどであった。
灰色の旅路に飽いていたトモとしても今回は少しは観光のしがいがあることを期待していた。
平原を進み街道に出ると、まばらながら人通りが見えた。
行商人のほかは、豪奢な馬車に乗ったものがほとんどでそれなりに裕福そうなものが多い印象だった。
トモたちのような徒歩で進む者は少ない。
通行者たちには少々偏りがあるようだ。
「まぁここは巡礼者の道だからね。修行僧でもなければ裕福な者が物見遊山でしかこないよ」
トモがきょろきょろしているとリリアナが説明してくれた。
聖地巡礼というのはこの世界における旅行のようなものらしい。
娯楽が少ないことに気付いたトモは納得し道を進んでいった。
丘を登っていくと街の城門が見えてきた。
門に近づくと、トモはリリアナに普段使っている者と違うギルドカードを渡された。
そこにはこの世界の文字でプリーストの職が記載されていた。
街に入るときにも偽るつもりらしい。
「これは兵士様お勤めご苦労様です。 巡礼の旅でこちらへ参りました。どうぞお通しください」
そういうと、兵士は身分証を受けとる。二人分の身分証を受け取ると簡単な確認のみですぐに通してくれたのだった。
随分と国境での対応とは違うようである。
それには秘密があるようだが、リリアナはその話はまた後でとのことだった。
城門を抜けると白い石畳の道の中央と両脇には色とりどりの花々が咲き誇っていた。
花々の香りは芳しく香り、まさに評判通りの街のようだ。
「それで? ギルドに行くの?」
「いいえ。 そもそもここのギルドはちょっと特殊でね。 どちらかといえば騎士団の下部組織にちかいのよ」
「あ、あぁ……」
移動中に簡単にクーリガーから状況を聞いたトモは、その言葉に納得した。
いきなり敵のど真ん中に突っ込むのはあまりに無謀だ。
「一応アジトの用意はできてるわ。寝床に困るってことはないから安心して」
美しい街並みを歩きながら、トモはリリアナについていく。
だがいつしかうつくしい色合いは消え失せ、花の香りは汚物のにおいに塗れた吐き気のする匂いに変っていった。
この街は階層構造になっているらしく。横道を抜け下へ下へと下っていく。
いつしか女神の庭園ともうたわれた街並みは薄暗い宵闇の街へと変貌していた。
浮浪者がたむろする広場を抜けた先に、一軒のそれなりにしっかりとした建物が見えた。
どうやら教会のようだ。
リリアナはその扉をノックすると一人の老いたシスターが現れるのだった。
そのシスターはリリアナを一瞥すると、無言で中に通したのだった。
トモはその姿をびくびくとついていくのが精いっぱいだった。