「じゃ、現状の説明といこうか」
鼻息荒くリリアナが薄い胸を張りだし、上機嫌な様子で話を切り出した。
トモはこの流れには覚えがある。何度か妙にテンションが高い彼女を見たことがあるが都度碌なことがない。
滝に突き落とされたり、谷底に突き落とされたり、火口に突き落とされたりと、ひどい目にあっている。
(って私落とされてばかりだな……)
「どうしたの? 話聞いてる?」
「今度はどこに落とすつもり……? せめて、心の準備ぐらいさせてよ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
背中を押される感覚と、重力に惹かれる感覚を想起しトモは大泣きしてしまった。
その姿にぎょっとしたドライアドはひそひそとリリアナに耳うちする。
「救世主殿はいきなりどうしたのじゃ?」
「たまにこうなるんだよね。使い物にならないからクーリガー出てきてくれるかい?」
原因はしれッとしたものである。
クーリガーはわんわんと泣く主の代わりに声を出した。
その声音は呆れた声色を隠し切れない。
「あまりマイスターをいじめるのはやめてください。 宥めるのが大変なんですから」
「はははははは」
クーリガーは作り笑いで返すリリアナに言っても無駄と諦めて話を促すことにする。
すると、大泣きするトモに防音魔法施し、普段の覇気のない表情をして淡々とリリアナは話始めた。
無音で泣き続ける少女の姿は実にシュールな光景であった。
「現在、神聖皇国がアメーバを集めてるのが確認されてね。それの回収が我々の任務だ」
「国家間の回収はギルドの管轄だったのでは? 外交問題になるでしょう?」
「その通りなんだけど、今回は状況が特殊でね」
そういうとリリアナは説明し始めた。
リリアナ曰く、まずこの神聖皇国には情報を共有していなかったそうだ。
理由としては、権威はあるが自国単独での主権を有していない共同統治国という特殊な政治背景にある。
下手に外交カードを持たせることを統治に参画した国々がよしとしなかったのだ。
二つ目はこの国に落ちたアメーバの数は明らかに多い。4国を回ってトモ達が集めた数とは比較にならないとのことだった。
そして三つ目、神聖皇国の騎士団が法皇への報告もせずにアメーバを集めているということだ。
つまり、軍閥が暴走し始めているのだ。それだけでかなりきな臭い物を感じる。
提示された情報だけで、最悪のシナリオが簡単に予想ができる。
軍靴の足音が耳元に聞こえるかのようだ。
だがあまりに情報に輪郭がはっきりと捉えられていることに、クーリガーは疑問を感じた。
「随分と情報が明確ですね。 内部告発でもありましたか?」
「するどいね。 その通りだよ。 それも信頼に足る情報筋さ」
「法皇もしくは、その縁者といったところですか?」
「というより、聖女様だね。 神託の巫女たる聖女が救援を依頼してきたのさ」
「聖女? それは胡乱な……」
「あぁ、君たちには馴染みがないか……。 簡単にいうと、この国のトップは各国の承認を得て、選挙で決まる法皇と、政治的権力をもたない神託によって選ばれる聖女がいるのさ。 騎士団は聖女様の護衛騎士団に当たるんだ。そして、今回のタレコミってわけ。 更には法皇側には反乱を抑制するために戦力の放棄をさせている。 どうだい? 頭が痛くなるだろ?」
「つまり、騎士団が完全に暴走した挙句、自国に対抗戦力もなし。 しかも、政治的緩衝地帯で、表だって軍も派遣できず、緊急性もあると……。詰みですね」
にやりと、リリアナは笑う。
「作戦は聖女様と直接謁見してから考えよう。おそらくは真正面からぶつかる羽目になる。覚悟しておいてくれ」
「絶対また泣き出しますよ。対人戦は嫌いなんですマイスターは」
「まぁその時はケツを捲って逃げるしかないわね」
そうリリアナが嘯くと、これまで置いてけぼりだったドライアドが口を開いた。
「おぬしらの話で得心が言ったわ。 やはりあの騎士団はおぬしらの手の物ではなかったのじゃな。 森に現れた恐ろしき物の数に手を焼いて負ったが、残らず片付いてしまった。しかし、人間同士のいさかいに利用されそうとはの」
「やはり、騎士団の動きは活発ってことか。ドライアド、この森にあったアメーバの数はわかるかい?」
そのリリアナの問いに期待以上の答えをドライアドは返した。
「森以外も合わせて57は間違いなく回収しておるようじゃな。シルフ共が噂しておった」
「シルフ達の噂をそのまま信用するのは危ないけど……。まぁ、とりあえずは思った以上に状況が悪いことだけはわかった。クーリガー、戦力的には勝てるかい?」
「周りの被害を考慮しなければ容易く」
その言葉にリリアナは胃に冷たい物が落ちるの感じた。
普段のトモの緩い空気に忘れそうになるが、彼女自身もこの世界にとっては脅威の存在だと思い出させた。
だが今回は緊急事態だ。
その恐怖心を飲み込みリリアナはなるべく被害を減らしてくれと、小さく言うのが精いっぱいであった。
いつの間にか泣きつかれて寝入ったトモの横顔を見ながら、リリアナは物思いにふける。
(果たしてこのまま彼女の力を当てにしてよいのだろうか? 我々は破滅の引き金を自分たちで引いているのではないだろうか)
言い知れぬ不安が心を覆い不快な気持ちのまま彼女は眠りに付くのだった。
鼻息荒くリリアナが薄い胸を張りだし、上機嫌な様子で話を切り出した。
トモはこの流れには覚えがある。何度か妙にテンションが高い彼女を見たことがあるが都度碌なことがない。
滝に突き落とされたり、谷底に突き落とされたり、火口に突き落とされたりと、ひどい目にあっている。
(って私落とされてばかりだな……)
「どうしたの? 話聞いてる?」
「今度はどこに落とすつもり……? せめて、心の準備ぐらいさせてよ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
背中を押される感覚と、重力に惹かれる感覚を想起しトモは大泣きしてしまった。
その姿にぎょっとしたドライアドはひそひそとリリアナに耳うちする。
「救世主殿はいきなりどうしたのじゃ?」
「たまにこうなるんだよね。使い物にならないからクーリガー出てきてくれるかい?」
原因はしれッとしたものである。
クーリガーはわんわんと泣く主の代わりに声を出した。
その声音は呆れた声色を隠し切れない。
「あまりマイスターをいじめるのはやめてください。 宥めるのが大変なんですから」
「はははははは」
クーリガーは作り笑いで返すリリアナに言っても無駄と諦めて話を促すことにする。
すると、大泣きするトモに防音魔法施し、普段の覇気のない表情をして淡々とリリアナは話始めた。
無音で泣き続ける少女の姿は実にシュールな光景であった。
「現在、神聖皇国がアメーバを集めてるのが確認されてね。それの回収が我々の任務だ」
「国家間の回収はギルドの管轄だったのでは? 外交問題になるでしょう?」
「その通りなんだけど、今回は状況が特殊でね」
そういうとリリアナは説明し始めた。
リリアナ曰く、まずこの神聖皇国には情報を共有していなかったそうだ。
理由としては、権威はあるが自国単独での主権を有していない共同統治国という特殊な政治背景にある。
下手に外交カードを持たせることを統治に参画した国々がよしとしなかったのだ。
二つ目はこの国に落ちたアメーバの数は明らかに多い。4国を回ってトモ達が集めた数とは比較にならないとのことだった。
そして三つ目、神聖皇国の騎士団が法皇への報告もせずにアメーバを集めているということだ。
つまり、軍閥が暴走し始めているのだ。それだけでかなりきな臭い物を感じる。
提示された情報だけで、最悪のシナリオが簡単に予想ができる。
軍靴の足音が耳元に聞こえるかのようだ。
だがあまりに情報に輪郭がはっきりと捉えられていることに、クーリガーは疑問を感じた。
「随分と情報が明確ですね。 内部告発でもありましたか?」
「するどいね。 その通りだよ。 それも信頼に足る情報筋さ」
「法皇もしくは、その縁者といったところですか?」
「というより、聖女様だね。 神託の巫女たる聖女が救援を依頼してきたのさ」
「聖女? それは胡乱な……」
「あぁ、君たちには馴染みがないか……。 簡単にいうと、この国のトップは各国の承認を得て、選挙で決まる法皇と、政治的権力をもたない神託によって選ばれる聖女がいるのさ。 騎士団は聖女様の護衛騎士団に当たるんだ。そして、今回のタレコミってわけ。 更には法皇側には反乱を抑制するために戦力の放棄をさせている。 どうだい? 頭が痛くなるだろ?」
「つまり、騎士団が完全に暴走した挙句、自国に対抗戦力もなし。 しかも、政治的緩衝地帯で、表だって軍も派遣できず、緊急性もあると……。詰みですね」
にやりと、リリアナは笑う。
「作戦は聖女様と直接謁見してから考えよう。おそらくは真正面からぶつかる羽目になる。覚悟しておいてくれ」
「絶対また泣き出しますよ。対人戦は嫌いなんですマイスターは」
「まぁその時はケツを捲って逃げるしかないわね」
そうリリアナが嘯くと、これまで置いてけぼりだったドライアドが口を開いた。
「おぬしらの話で得心が言ったわ。 やはりあの騎士団はおぬしらの手の物ではなかったのじゃな。 森に現れた恐ろしき物の数に手を焼いて負ったが、残らず片付いてしまった。しかし、人間同士のいさかいに利用されそうとはの」
「やはり、騎士団の動きは活発ってことか。ドライアド、この森にあったアメーバの数はわかるかい?」
そのリリアナの問いに期待以上の答えをドライアドは返した。
「森以外も合わせて57は間違いなく回収しておるようじゃな。シルフ共が噂しておった」
「シルフ達の噂をそのまま信用するのは危ないけど……。まぁ、とりあえずは思った以上に状況が悪いことだけはわかった。クーリガー、戦力的には勝てるかい?」
「周りの被害を考慮しなければ容易く」
その言葉にリリアナは胃に冷たい物が落ちるの感じた。
普段のトモの緩い空気に忘れそうになるが、彼女自身もこの世界にとっては脅威の存在だと思い出させた。
だが今回は緊急事態だ。
その恐怖心を飲み込みリリアナはなるべく被害を減らしてくれと、小さく言うのが精いっぱいであった。
いつの間にか泣きつかれて寝入ったトモの横顔を見ながら、リリアナは物思いにふける。
(果たしてこのまま彼女の力を当てにしてよいのだろうか? 我々は破滅の引き金を自分たちで引いているのではないだろうか)
言い知れぬ不安が心を覆い不快な気持ちのまま彼女は眠りに付くのだった。