たっぷりと休んだトモ達は昨日とギルドへ向かった。
ギルドは相変わらず騒がしく、昨日の腕試しの結果を肴に飲んでいる強面の冒険者がトモを見つけると、挨拶をしてくる。
その挨拶にひきつった笑顔で答えながら、マリーと二人で待っていた。
ジェイル達は二日酔いで休養中だとのこと。
(私の扱い雑すぎないか……?)
マリーは冒険者なんて、そんなもんよ。と呆れた顔を見せている。
慣れたものだといった表情だ。
受付嬢に言うとそのまま昨日と同じ政務室に通されるが、マリーは中には入れないようだ。
その場には昨日と違うメンバーが二人いた。
うさ耳のギルドマスターは不機嫌そうな顔をしている。
まだ昨日の結果に納得いっていないらしい。
蒸し返すつもりはないようだが、胃に悪いので腰の獲物に手を出そうとするのはやめてほしい。
二人が席に着くと、見知らぬメンバーの紹介が始まる。
一人は初老の男性。この街シュリンドの領主、マルゼン辺境伯。シュリンドが属する国カーリシア王国の大貴族なのだそうだ。全体的にナイスミドルといった装いで渋めの雰囲気だ。
そしてもう一人は、マリーと同じエルフの少女だ。彼女も冒険者らしい。なんでも白銀鷲翼級という上から二番目の等級らしい。名はリリアナという。
「さて、君がトモくんだね。 エステルから話を聞いていたが、随分と毒気が抜かれる容姿をしている」
「あ……、えーと、ははは」
どうやら領主が話の主導権を握るらしい。
トモはこういう面接のような雰囲気に慣れていない。
しどろもどろになりながら反応すると、領主は苦笑しながらエステルに話を振る。
「本当に彼女で大丈夫かね? というよりギルドで対処は不可能という目算は確かなのかね?」
「業腹ですが、ドライアド達精霊が対処できない物が世界中に散らばったなど対処可能だと思いますか? 知られるだけで小国が滅びかねませんよ?」
「ふむ……。 秘密裡に動くしかないという事は理解している。 だが信用できるのか?」
「少なくとも戦闘能力だけは」
どうやら、トモの知らぬところで政治的判断が差し挟まったようだ。
簡単にパトロンになってくれるという話でもないらしい。
「仕方ありません。 マイスター私がお話しても?」
旗色の悪さにクーリガーが発言する。
虚空からの突然聞きなれない言葉に、領主は動揺を見せる。
ギルマスとエルフの冒険者は反応するが、驚きはないようだ。
「インテリジェントデバイス……、見たところ胸に下げた水晶かな」
ここまで無言のエルフ――リリアナが口を開く。
「一応人造生命体ではありますが、同じようなものとお考え下さい。 わが主は少々こういった話には不向きなので私が話をお伺いしましょう」
その言葉にリリアナは領主に顔を向け、こくりと頷く。
「さて、では話を続けよう。 えーとなんと呼べばいいのかな?」
「クーリガーと」
「そうかでは早速クーリガー、君はこの件についてどの程度協力するつもりなのかい?」
「現状私たちは判断するほどの材料を提示されていないように思いますが?」
その返しに、領主は苦虫をかみつぶしたような顔を見せる。
情報を与えずに強気の交渉をする気だったのだろう。
戦闘力が未知数の相手に権力という威光で強引に話をつけるつもりが出鼻をくじかれる。
「領主様、申し訳ありませんが余り刺激しないでいただきたい。 その小娘は騙せても、魔道具はおそらく神話級の代物です。腹芸でどうにかなるとは思えません。 そしてそのトモの戦力は私が軽くあしらわれたことをご留意いただきたい」
先ほどからまじめな雰囲気のエステルが真摯に状況の説明をした。
その言葉に領主は一瞥すると、先ほどまでと打って変わり張り詰めたような空気を解いて話し出す。
「ずいぶんとやりづらいものだな。 力を持つ世間知らずの相手というのは。 非礼を詫びよう。 まずは確認だクーリガー。 君らは神の御使いという言葉は知っているかね?」
「其れは宗教的な超自然的存在としての言葉としてですか?」
「いやそういう意味ではない。 勇者とも聖者ともいわれる役職を神より与えられこの世界に顕現した異世界からの旅人のことだ」
「そんなものがこの世界は実在していると?」
「そうだ。 そしてこの世界ではどんな辺境の地であろうと身近な話なのだよ。だが、君らは知らないとなるとおそらく御使いと同様なのだろう。 だが……、記憶がないというのは不可解なのだよ私は。 そんなことを聞いたこともない」
「つまり、私たちもこの世界の神に使命を与えられているのではないかとお思いですか?」
「そうだ。 正体不明の化け物を退治することが君たちの使命ではないのかね?」
「私のメモリーにもそのような記録はありませんね。 マイスターの記憶にもそういったことはないかと。
私たちは状況証拠からあの寄生生物が元の世界への帰還の糸口になるのではと判断しただけです」
「領主様ちょっといい?」
リリアナが何となく感づいた様子で話しに割って入る。
その言葉に領主が発言を許すと、推論を口にする。
「すごく珍しいけど、おそらく彼らは迷い人だ。 神々も予想外の訪問者だと思う。 1000年振りぐらい。 しかもこれほどの力を持ったのが現れるなんて」
「つまり完全な事故ということか? エルフの国ではどういう対処をしたのかわかるかね?」
「対処ってことはないわ。すぐに死んでしまったから、神の恩寵がない人間が生きられるほどこの世界は甘くない。 でもこの娘は……」
その言葉に領主は明らかな落胆を見せる。
先人の知恵を借りようにもイレギュラーが過ぎるということなのだろう。
「対処すべきことが山積みだな。 しかも時間を掛ければ世界がどう転ぶかもわからんと……。
博打を打つのはあまり好かんのだがな。仕方あるまい。 トモ、君にはその化け物の回収を頼みたい。そのための身分と役職、資金は手配しよう。そして――」
そこで一区切りすると、これは大事なことだと前置きし続ける。
「一つ、目的を明かさない。二つ、我が国の名を出さない。三つ、必要以上に協力者を増やさない。だ。
後は帰還の目途がたつようなことがあれば相談してくれ。そのほかとしては、回収方法についてはギルドに共有してくれ国家としてこの力を保有されてはかなわん」
「随分と破格な条件に感じますが、要は派手に動かず回収しろということでよろしいですか? 領主殿」
クーリガーは交渉を纏めようと内容を確認する。
「その通りだ。 他国には秘密裡に情報は開示するが、少なくとも戦時利用されたらほんとに国が亡びる事態になりかねん。ギルドは国家間に跨る組織だ。パワーバランスの崩壊につながる情報を握らせとくにはちょうどいい」
その言葉に、エステルは頭を抱えている。
面倒な手続きがあるのだろう。
げっそりとした顔をトモに向け、エステルは話しだす。
「まぁそういうわけだ。 早速出発というわけにはいかないだろうが、急いでくれ。 各ギルド支部には連絡を入れておく。後ほど符牒を決めて教えるからそれを使ってやり取りしてくれ。あと、この世界の常識にも疎いだろうから、旅の共にリリアナをつけるから、仲良くしてくれ」
「よろしく」
「あっはい。よろしくお願いします」
そっけない態度だがリリアナから挨拶してくれる。
つかみどころがない感じだが、特に一物を抱えている様子はない。
だが、だれかを連れての旅には不安が過った。
「戦力的に不安? 大丈夫、最悪逃げるくらいはして見せるわ」
リリアナはそういうとむふーと得意げな笑みを浮かべ小さな胸を張る。
(う、不安だ……)
存外早く話が終わったことに安堵するトモ。
ほぼ、クーリガーのおかげであったがとりあえずは難所を超えたというべきであろう。
後は、帰還の手立てを探すだけだ。
そう考えていた。 だが、ここから彼女たちはこの世界の都合に巻き込まれていく。
けして簡単な道行ではない困難が待ち受けることになっているのだった。
ギルドは相変わらず騒がしく、昨日の腕試しの結果を肴に飲んでいる強面の冒険者がトモを見つけると、挨拶をしてくる。
その挨拶にひきつった笑顔で答えながら、マリーと二人で待っていた。
ジェイル達は二日酔いで休養中だとのこと。
(私の扱い雑すぎないか……?)
マリーは冒険者なんて、そんなもんよ。と呆れた顔を見せている。
慣れたものだといった表情だ。
受付嬢に言うとそのまま昨日と同じ政務室に通されるが、マリーは中には入れないようだ。
その場には昨日と違うメンバーが二人いた。
うさ耳のギルドマスターは不機嫌そうな顔をしている。
まだ昨日の結果に納得いっていないらしい。
蒸し返すつもりはないようだが、胃に悪いので腰の獲物に手を出そうとするのはやめてほしい。
二人が席に着くと、見知らぬメンバーの紹介が始まる。
一人は初老の男性。この街シュリンドの領主、マルゼン辺境伯。シュリンドが属する国カーリシア王国の大貴族なのだそうだ。全体的にナイスミドルといった装いで渋めの雰囲気だ。
そしてもう一人は、マリーと同じエルフの少女だ。彼女も冒険者らしい。なんでも白銀鷲翼級という上から二番目の等級らしい。名はリリアナという。
「さて、君がトモくんだね。 エステルから話を聞いていたが、随分と毒気が抜かれる容姿をしている」
「あ……、えーと、ははは」
どうやら領主が話の主導権を握るらしい。
トモはこういう面接のような雰囲気に慣れていない。
しどろもどろになりながら反応すると、領主は苦笑しながらエステルに話を振る。
「本当に彼女で大丈夫かね? というよりギルドで対処は不可能という目算は確かなのかね?」
「業腹ですが、ドライアド達精霊が対処できない物が世界中に散らばったなど対処可能だと思いますか? 知られるだけで小国が滅びかねませんよ?」
「ふむ……。 秘密裡に動くしかないという事は理解している。 だが信用できるのか?」
「少なくとも戦闘能力だけは」
どうやら、トモの知らぬところで政治的判断が差し挟まったようだ。
簡単にパトロンになってくれるという話でもないらしい。
「仕方ありません。 マイスター私がお話しても?」
旗色の悪さにクーリガーが発言する。
虚空からの突然聞きなれない言葉に、領主は動揺を見せる。
ギルマスとエルフの冒険者は反応するが、驚きはないようだ。
「インテリジェントデバイス……、見たところ胸に下げた水晶かな」
ここまで無言のエルフ――リリアナが口を開く。
「一応人造生命体ではありますが、同じようなものとお考え下さい。 わが主は少々こういった話には不向きなので私が話をお伺いしましょう」
その言葉にリリアナは領主に顔を向け、こくりと頷く。
「さて、では話を続けよう。 えーとなんと呼べばいいのかな?」
「クーリガーと」
「そうかでは早速クーリガー、君はこの件についてどの程度協力するつもりなのかい?」
「現状私たちは判断するほどの材料を提示されていないように思いますが?」
その返しに、領主は苦虫をかみつぶしたような顔を見せる。
情報を与えずに強気の交渉をする気だったのだろう。
戦闘力が未知数の相手に権力という威光で強引に話をつけるつもりが出鼻をくじかれる。
「領主様、申し訳ありませんが余り刺激しないでいただきたい。 その小娘は騙せても、魔道具はおそらく神話級の代物です。腹芸でどうにかなるとは思えません。 そしてそのトモの戦力は私が軽くあしらわれたことをご留意いただきたい」
先ほどからまじめな雰囲気のエステルが真摯に状況の説明をした。
その言葉に領主は一瞥すると、先ほどまでと打って変わり張り詰めたような空気を解いて話し出す。
「ずいぶんとやりづらいものだな。 力を持つ世間知らずの相手というのは。 非礼を詫びよう。 まずは確認だクーリガー。 君らは神の御使いという言葉は知っているかね?」
「其れは宗教的な超自然的存在としての言葉としてですか?」
「いやそういう意味ではない。 勇者とも聖者ともいわれる役職を神より与えられこの世界に顕現した異世界からの旅人のことだ」
「そんなものがこの世界は実在していると?」
「そうだ。 そしてこの世界ではどんな辺境の地であろうと身近な話なのだよ。だが、君らは知らないとなるとおそらく御使いと同様なのだろう。 だが……、記憶がないというのは不可解なのだよ私は。 そんなことを聞いたこともない」
「つまり、私たちもこの世界の神に使命を与えられているのではないかとお思いですか?」
「そうだ。 正体不明の化け物を退治することが君たちの使命ではないのかね?」
「私のメモリーにもそのような記録はありませんね。 マイスターの記憶にもそういったことはないかと。
私たちは状況証拠からあの寄生生物が元の世界への帰還の糸口になるのではと判断しただけです」
「領主様ちょっといい?」
リリアナが何となく感づいた様子で話しに割って入る。
その言葉に領主が発言を許すと、推論を口にする。
「すごく珍しいけど、おそらく彼らは迷い人だ。 神々も予想外の訪問者だと思う。 1000年振りぐらい。 しかもこれほどの力を持ったのが現れるなんて」
「つまり完全な事故ということか? エルフの国ではどういう対処をしたのかわかるかね?」
「対処ってことはないわ。すぐに死んでしまったから、神の恩寵がない人間が生きられるほどこの世界は甘くない。 でもこの娘は……」
その言葉に領主は明らかな落胆を見せる。
先人の知恵を借りようにもイレギュラーが過ぎるということなのだろう。
「対処すべきことが山積みだな。 しかも時間を掛ければ世界がどう転ぶかもわからんと……。
博打を打つのはあまり好かんのだがな。仕方あるまい。 トモ、君にはその化け物の回収を頼みたい。そのための身分と役職、資金は手配しよう。そして――」
そこで一区切りすると、これは大事なことだと前置きし続ける。
「一つ、目的を明かさない。二つ、我が国の名を出さない。三つ、必要以上に協力者を増やさない。だ。
後は帰還の目途がたつようなことがあれば相談してくれ。そのほかとしては、回収方法についてはギルドに共有してくれ国家としてこの力を保有されてはかなわん」
「随分と破格な条件に感じますが、要は派手に動かず回収しろということでよろしいですか? 領主殿」
クーリガーは交渉を纏めようと内容を確認する。
「その通りだ。 他国には秘密裡に情報は開示するが、少なくとも戦時利用されたらほんとに国が亡びる事態になりかねん。ギルドは国家間に跨る組織だ。パワーバランスの崩壊につながる情報を握らせとくにはちょうどいい」
その言葉に、エステルは頭を抱えている。
面倒な手続きがあるのだろう。
げっそりとした顔をトモに向け、エステルは話しだす。
「まぁそういうわけだ。 早速出発というわけにはいかないだろうが、急いでくれ。 各ギルド支部には連絡を入れておく。後ほど符牒を決めて教えるからそれを使ってやり取りしてくれ。あと、この世界の常識にも疎いだろうから、旅の共にリリアナをつけるから、仲良くしてくれ」
「よろしく」
「あっはい。よろしくお願いします」
そっけない態度だがリリアナから挨拶してくれる。
つかみどころがない感じだが、特に一物を抱えている様子はない。
だが、だれかを連れての旅には不安が過った。
「戦力的に不安? 大丈夫、最悪逃げるくらいはして見せるわ」
リリアナはそういうとむふーと得意げな笑みを浮かべ小さな胸を張る。
(う、不安だ……)
存外早く話が終わったことに安堵するトモ。
ほぼ、クーリガーのおかげであったがとりあえずは難所を超えたというべきであろう。
後は、帰還の手立てを探すだけだ。
そう考えていた。 だが、ここから彼女たちはこの世界の都合に巻き込まれていく。
けして簡単な道行ではない困難が待ち受けることになっているのだった。