気付けば私は、涙を流してダイニングにぽつんと座っていた。
 健一(けんいち)は、私の知らないところで成長し、大人になっていた。
 きっと色々な経験をしたのだろう。辛いことも、悲しいこともあったかもしれない。それでも、何かを守るために行動できる、立派な大人になっていたのだ。
 その成長を近くで見ることができなかったのは、少しだけ寂しい。

 物思いに耽っていると、夜だというのに隆成(りゅうせい)さんが慌てて寝室から飛び出してきた。片手には、通話中の文字が表示されたスマートフォンを握っている。

「和子、今すぐ病院に行こう!」

 隆成(りゅうせい)さんの言わんとしていることは、私にもわかった。健一(けんいち)が目を覚ましたのだろう。
 私たちは急いで支度をして病院に向かう。早く健一(けんいち)に会いたくて仕方なかった。

 健一(けんいち)が眠る個室へと慌てて向かい、扉を開ける。
 お医者様や看護師さんに囲まれて、健一(けんいち)は元気な笑顔で私たちの到着を待っていた。

「父さん! 母さん!」

健一(けんいち)!」

 私と隆成(りゅうせい)さんは、健一(けんいち)に駆け寄って涙を流した。
 半年眠っていたこと、ずっと機械に生かされていたこと、それらを捲し立てるように説明するけど、健一(けんいち)は全く理解できていないみたい。
 それよりも、話したいことがあるのかうずうずしているようだった。

「俺、国を救う勇者になったんだ。エルフと旅をして、魔王を倒して、ようやく帰ってきたんだよ」

 隆成(りゅうせい)さんはそれを夢だと言うけど、私は知っている。健一(けんいち)は素敵な旅をして、諦めない心を学んで、成長して帰ってきたことを。

「そうだ。魔王と戦ってピンチになった時に、母さんの声が聞こえたんだ」

 健一(けんいち)は語る。

「諦めちゃだめ、頑張りなさいって。いつも剣道の試合で応援してくれるみたいな感じでさ。
 母さん、もしかして魔王城にいた?」

 私はふふっと笑う。

「もしかしたら、いたかもね」

「え、まじで?」

 健一(けんいち)は顔を真っ赤にさせる。
 そりゃそうよね。彼女とのハグを親に見られたんだから、恥ずかしいに決まってる。

 隆成(りゅうせい)さんは、私と健一(けんいち)の会話に首を傾げていた。