私が今、学校にいることは誰も知らない。担任の杜若先生に卒業式に出ることを伝えるためだけに来た。
「ほんとうに。何も対処できず、ごめんなさい。」
「もういいです。過ぎたことなので。もうひとつお願いしてもいいですか。」
 
 三月三日、卒業式当日。彼女達にできれば会いたくない。話しかけられたくもない。先生にお願いして卒業証書授与式だけ参加することを許可してもらった。自分の席に座り、名前が呼ばれるのを待つ。
「花澄詩夢!」
「はい!」このとき学校生活で一番大きな声を出したと思う。杜若先生は私の方を見て頷いた。
 一歩一歩ゆっくり階段を上がる。演台の前に立ち、自分の卒業証書を受け取る。
 「星乃華蘭!」

 
「華蘭の卒業証書を受け取らせてください。」
「分かった。先生から上の人にお願いしてみる。」
「ありがとうございます。お願いします。」

 
 私と華蘭の卒業証書を強く握ってステージから降りる。誰もが驚いていた。私が卒業式に出るなんて一人も思っていなかっただろう。みんなの視線が怖かった。今も変わらず私を軽蔑、侮辱、様々な目で見てくる。でも私は彼女達と目を合わせない。ただ扉の一点だけを見つめて歩く。
 校舎を見ると合唱の声が聞こえてくる。私は二人の卒業証書を空に並べた。華蘭が横にいるように思える。久々に笑えた気がした。小さな声でそっと「華蘭ありがとう」と声に出した。足元にはスイートピーが咲いている。学校に背を向けて私達は歩き出した。