ぽかーんっとした顔から、急に真剣な顔に変わる。コーヒーを啜りながら斜め上を見上げて何かを考えているようだった。
そして、こほんとわざとらしく咳をしてから、私の心の奥を見つめる。
「難しくはあると思いますが、えー、なぜだ……てっきりこう夢追い人てきなやりたいことだと思って聞いてたんですが。化粧品の研究者なら薬学部……薬剤師なんて食いっぱぐれない専門職だし、実際に薬剤師になれれば給料だっていいですよ……否定する意味がわからない、わからない……何がダメなんだ……学費的な話しか……?」
一人でぶつぶつと思案し始めた先生の前で、手を振る。私の話はぽつんっと置いていかれてしまっていた。
「あぁ、すみません。驚いてしまって。そんなに成績悪いんですか……?」
躊躇いがちに聞かれたことは、成績の話で。自慢じゃないが、悪くも良くもない。常に平均をキープしている。
「平均です」
「この学校で平均なら全然狙えますよ?」
「そうなんですか?」
「親御さんとはきちんと話しましょう。そうしましょう。えっとですね、薬学部がある大学のパンフレットを持ってきますね。家から通学したいですか? どこでもいいですか?」
「入学できるなら、どこでも」
するりと答えが出てくる。私は、できることなら化粧品の開発をしたい。化粧が好きなのもあるけど、可愛くてキラキラの世界を作り上げて、誰かに届けたいのだ。
自分自身の夢が急にぱあっと目の前に開けていく。あぁ、本当に私のやりたいことだったんだ。無理だと、否定されても諦めたくなかったんだなぁと今更思う。
しおしおと萎れていた気持ちがいつのまにか、胸の中でふわりと花を咲かしている。
「やりたいなら諦めないでください。僕が手伝いますよ、図書館に来る子なんてほとんどいませんし!」
先生としての言葉だって、わかってるのに。胸がたまらなくときめいて、好きだと音を奏で始めている。変な笑い方も、一人でぶつぶつ唱える姿も、胸の奥をハートマークで埋め尽くしていく。