図書室に顔を出しづらくなって、最近は学校に来ているのに音楽室に入り浸っていた。色々な曲を弾いてみたけど、相変わらず幽霊には出会えていない。
先生や好きな人ってどんな人なんだろうか。知りたいような、知りたくないような。
「カノン……」
先生のことを考えていたら、カノンが頭に浮かんだ。アプリにはカノンも収録されていた。表示しながら、拙い指で、カノンを弾く。たんたら、たんたん。
軽快な音なのに、今の私には重くのしかかってくる。
「カノン……」
不意に聞こえた声で、いつのまにか音楽室にいた女の子に気づいて顔をパッとあげる。見たことのない顔に、制服が、違う……?
「やめちゃうの?」
きれいな透き通るような声。足元はぼやけてる気がする。もしかして、私が探してた幽霊……?
「願いを叶えてくれるの?」
「なにそれ」
けらけらと笑って女の子が指を鍵盤に乗せる。鍵盤は一ミリも動かず、女の子の指だけが鍵盤をなぞっていく。
「ねぇ、真似して!」
女の子の言う通り、指を運べばキレイなカノンだ。左手も動いているけど、さすがに真似はできなかった。
「逃げない子、初めて」
「みんな見つけたら逃げちゃうの?」
「最初は会話してくれるんだけど、あれ、制服違うなってなって。足元見て、きゃあああって」
悲しそうな顔をして、女の子は笑って見せる。強がってる笑顔が、胸を痛ませた。
「願い事を叶えてくれる、って聞いて探してたの。先生から教えてもらったんだけど」
「願い事は……叶えてあげられないかな。そんな力はないし……私は音楽が好きなだけの普通の女の子だったから。ごめんね」
両手を合わせて謝る女の子に、首を横に振る。不安そうな表情に、何か話をしなくちゃと焦って、出た言葉は……