「離せ! 触るな!」
ガヤガヤと別室に入ってきたのは、傷だらけのトロイ・タッカーと猿轡をかまされたあの侍女だった。
「総団長、捕縛完了しました。ラモンが言った通り二名です」
ユーキさんとスバルさん、キャスリーン様は無傷。さすが!
「ご苦労。で? 何で居るはずのない二人がここに居るんだ?」
ん? トロイさんは罪人だから分かるけど… この女性も?
「それに関しては吐かないのよ~。どうする? このまま第六に引き渡す?」
キャスリーン様はやっほ~と手を振ってくれる。余裕だな~、ふりふり。
「そうだな… 今聞いておきたい事があるし、ここで拷問、ごほん、尋問をしよう。ユーキ結界を」
ユーキさんはさっきと同じように結界を張り直した。
総団長を中心に私達は罪人を取り囲む。
「キャス、この侍女の口…」
「ダメダメ。多分だけど口に何か仕掛けてあるの。魔法探知はしたんだけど、口だし… 眠らせてからじゃないとその猿轡は取れないわ」
「そうか… じゃぁ、兄の方に聞くとしよう」
兄? って事はこの女性はトロイさんの妹。あ~、修道院へ行ったはずのもう一人の妹かぁ。なるほど。
「トロイ・タッカー、なぜラモンを狙った? ん? 正直に迅速に答えろ、絶対に選択を間違えるなよ~。今日は時間がないからな、足や手をポキっと折るかもしれん」
総団長は一切笑わずトロイさんに迫る。トロイさんもビビったのかごくりと唾を飲む音が聞こえた。
「… 私達が没落したのがその女のせいだからだ」
「なぜそう思う? お前の下半身のせいじゃないのか?」
「タッカー伯爵家が没落した原因がそこの女の発明や、女が王族に媚を売ってるせいだからだ。大体、おかしいと思わないのか? 子爵ごときが団長になり、たまたま王子が居る第七へ異動? 身体でも差し出したんだろう… ペッ。卑しい奴め。それに『防犯笛』だと? どうせ少額の特許料に目が眩んだんだろうが、下女の為なんぞに発明なんかするか普通? そこの、卑しい下位貴族の女のせいで、私達はこんな目に! 全部、全部お前のせいだ、ラモン!」
総団長始め、みんな呆れた顔になっている。全部、人のせい。うわ~、バカはどこ行ってもバカだった。ははは。
「王族に媚び? どうしてそうなる?」
「アレク王子と仲がいいのは前から知っている。同じ第七出身だからな~。しかしそれは意図された出会いだろう? あの方の話では、アレク王子は本来第七で団長代理として自ら出世し第四へ異動になるはずだったそうだ。それを、この卑しい女が横から手柄を… どうせ身体で陥落させたんだろうよ。女はいいよな、股を開けば出世が出来るんだから、ははははは」
こいつ。ハゲろ。くそ~。
「あの方? 本来? お前の言うあの方は未来が分かるとでも?」
「あはははは、本当に知らないのだな。灯台もと暗しとはこの事だ。あの偉大な方は未来の出来事を何度も何度も的中させている。しかし、戦後から本来の未来が少しずつ変わってきているとお嘆きになった。それもこれも、その原因がそこの女のせいだと」
「戦後から、か…」
総団長はドーンの事を思っているのかな? チラッと私を見てからトロイの話に戻る。
「本来なら私は騎士団を牛耳るはずだった。ここの妹もアレク王子と恋に落ちるはずだったのだ。そし~」
「ん? ちょっと待て。他にも知っているのか? 自分に関係ない未来とやらを? その聞いている話を全部を最後まで言えるな?」
総団長は話を遮り、トロイの肩に手をかけた。
「ぐわぁぁぁ。は、離せ!」
「手を折られたくなければ話すんだ」
「… いいだろう。その代わり条件がある。我々を解放しろ」
「話の内容による。有意義な話なら解放しよう」
総団長! え? 解放するの?
「よし。まずあの方は未来が分かると仰って、何人かの同年代の上位貴族を集めお話会をされた。共に戦争を終結に導こうと。それで身近な出来事の未来をいくつか話され、それが数日後見事的中させた。私はその時この方のおっしゃる事は『本物だ』と確信したのだ。そう、未来を統べる国のリーダーだと。その方が話された未来の出来事に私達、タッカー家の事もあったのだ。さっき話した事だよ」
「しかし、矛盾がある。ラモンが登場してもお前は第二騎士団長になったではないか?」
「それは関係ない。第二の団長の席は私の実力とイバンナの力添えだからな」
「まぁ、いい。で? そこの妹はアレクと? だったか?」
「あぁ、アレク王子が将来妹と添い遂げる。あの方の話では第一王子はイバンナと結ばれたいが故に降下する。我が父の汚名や醜聞が、未来の王妃の実家として不適切だとイバンナが叩かれるのだ。しかし第一王子はイバンナと離れられない、それほど愛しているから。だから、第一王子は自ら王位継承権を放棄し降下するんだ。そして、第二王子は予定通り他国へ婿へ、アレク王子は我が妹と恋に落ち伯爵家を継ぐ」
「お前は継がないのか?」
「あぁ。話はまだ先がある。この妹が、アレク王子がこの先の出来事で大きな負傷をする際、命を助けるんだよ。妹はあの方の腹心だからな、その時にあの方から最上級ポーションを貰うんだ。それで、命を助けた妹と恋に落ち、あの方へアレク王子は忠誠を誓うんだ」
「お前に関係ないじゃないか? 早く話を進めろ」
「うっ。わ、私は、父の不正をあの方と共に暴き、ついでに他の貴族の不正も次々と暴いていく。貴族として清廉潔白な偉大な男として公爵へ昇格する未来が約束されていたのだ! それを、あの女、ラモンが現れたせいで… 何もかもがおかしくなった。今ならまだ間に合うんだ。今日は婚約式だからな、まだ結婚までに至っていない。だからこそ今の内にラモンを、本来の輝かしい未来の為に邪魔なやつを消せば、私が、皆が幸せになる本来の未来へと繋がる。私は正しい事をしたんだ! 正しい事をしたんだぁ!」
はぁはぁ、と息を切らしてドヤ顔でキメるトロイ様。しかも、『正しい事をしたんだ』って二回も言ったよ。ぷぷぷ。
私達はお互いに目を合わせ頷く。多分みんなが思い至ったであろう、いつか王女様が私に話した小説の話を思い出した。
『下克上女王は国で一番のバラを咲かせる』
「ふ~。そうか。ではあの方と言う黒幕はブリアナ王女で間違いないな?」
「なっ! そ、それは…」
「あぁ? どうなんだ?」
「グッ…」
総団長はイラついているのか、何も言わずにトロイさんの肩を外した。
「ガァぁぁぁああ!」
「次は折る」
「ひっ! そ、そうだ! あの方とは王女様だ」
チョロっ。まぁ、アホな下半身を持ってるトロイさんじゃ関節外しただけで吐いてしまうか。もうちょっと仲間を見た方が良かったね。ブリアナ王女様。
「なぜ、お前達が王城に入れたかはあとで拷問するとして。そこの女も覚悟するように。口の仕掛けを取ったら洗いざらい吐いてもらうからな。ところで、トロイ、もう一つ質問がある」
「はぁはぁ、何だ? それより解放する約束ではないのか? 話が違うじゃないか!」
「あん? 有意義な話ならと言ったはずだ。私達にとっては全く有意義ではない。お前らの妄想話だろ?」
「は? そ、そんな… やばい… 殺される…」
トロイさんは一気に顔が青くなりブツブツ言い始める。
「おい、トロイ、ドーンにも何か仕掛けたか? お前じゃなくてもいい。別の誰か、別の仲間が攻撃したとそんな話は聞いていないか?」
「ド、ドーンだと? 知らない。今夜のターゲットはラモン一人だ」
「… 本当だな? また聞くぞ、腕に?」
「ほ、本当だ。ドーン副団長は計画に名前がなかった」
納得したのか、総団長はとりあえずここで一旦尋問を止めるようだ。まだ、王城ではパーティーしてるもんね。
「ユーキ、こいつを最上の牢へ入れておけ。妹の方もな」
「了解しました」
「キャス、至急陛下の元へ。何もないと思うが警備を強化しろ。パーティー終了後に話があると伝言を頼む」
「了解」
「スナッチは第二王子につけ。護衛は居るだろうがそれも含めて変な動きがないか警戒しろ」
「はい」
「スバル、ユーグを探して王女を見張れ。今でも第五がウジャウジャついてるが、表面上は姿はないはずだ。会場内、半径二メートル以内で誰と話したなど、細かく観察しろ」
「了解です」
「ラモン、お前は… 王城の部屋を用意する。今日はこれから明日呼びに行くまで外に出ない事。危険だ」
「了解です」
「よし。解散」
「「「「はっ」」」」
やっぱり王女様だった。そして小説の内容… 物語だからかな? ちょっと所々無理ある設定があったな。あのトロイが清廉潔白? 下半身が我慢出来ないのに?
ふ~。
とりあえず、上手く行った。
さて、ドーンの記憶の事、どうしよう。総団長に言うべきか… う~ん。
ガヤガヤと別室に入ってきたのは、傷だらけのトロイ・タッカーと猿轡をかまされたあの侍女だった。
「総団長、捕縛完了しました。ラモンが言った通り二名です」
ユーキさんとスバルさん、キャスリーン様は無傷。さすが!
「ご苦労。で? 何で居るはずのない二人がここに居るんだ?」
ん? トロイさんは罪人だから分かるけど… この女性も?
「それに関しては吐かないのよ~。どうする? このまま第六に引き渡す?」
キャスリーン様はやっほ~と手を振ってくれる。余裕だな~、ふりふり。
「そうだな… 今聞いておきたい事があるし、ここで拷問、ごほん、尋問をしよう。ユーキ結界を」
ユーキさんはさっきと同じように結界を張り直した。
総団長を中心に私達は罪人を取り囲む。
「キャス、この侍女の口…」
「ダメダメ。多分だけど口に何か仕掛けてあるの。魔法探知はしたんだけど、口だし… 眠らせてからじゃないとその猿轡は取れないわ」
「そうか… じゃぁ、兄の方に聞くとしよう」
兄? って事はこの女性はトロイさんの妹。あ~、修道院へ行ったはずのもう一人の妹かぁ。なるほど。
「トロイ・タッカー、なぜラモンを狙った? ん? 正直に迅速に答えろ、絶対に選択を間違えるなよ~。今日は時間がないからな、足や手をポキっと折るかもしれん」
総団長は一切笑わずトロイさんに迫る。トロイさんもビビったのかごくりと唾を飲む音が聞こえた。
「… 私達が没落したのがその女のせいだからだ」
「なぜそう思う? お前の下半身のせいじゃないのか?」
「タッカー伯爵家が没落した原因がそこの女の発明や、女が王族に媚を売ってるせいだからだ。大体、おかしいと思わないのか? 子爵ごときが団長になり、たまたま王子が居る第七へ異動? 身体でも差し出したんだろう… ペッ。卑しい奴め。それに『防犯笛』だと? どうせ少額の特許料に目が眩んだんだろうが、下女の為なんぞに発明なんかするか普通? そこの、卑しい下位貴族の女のせいで、私達はこんな目に! 全部、全部お前のせいだ、ラモン!」
総団長始め、みんな呆れた顔になっている。全部、人のせい。うわ~、バカはどこ行ってもバカだった。ははは。
「王族に媚び? どうしてそうなる?」
「アレク王子と仲がいいのは前から知っている。同じ第七出身だからな~。しかしそれは意図された出会いだろう? あの方の話では、アレク王子は本来第七で団長代理として自ら出世し第四へ異動になるはずだったそうだ。それを、この卑しい女が横から手柄を… どうせ身体で陥落させたんだろうよ。女はいいよな、股を開けば出世が出来るんだから、ははははは」
こいつ。ハゲろ。くそ~。
「あの方? 本来? お前の言うあの方は未来が分かるとでも?」
「あはははは、本当に知らないのだな。灯台もと暗しとはこの事だ。あの偉大な方は未来の出来事を何度も何度も的中させている。しかし、戦後から本来の未来が少しずつ変わってきているとお嘆きになった。それもこれも、その原因がそこの女のせいだと」
「戦後から、か…」
総団長はドーンの事を思っているのかな? チラッと私を見てからトロイの話に戻る。
「本来なら私は騎士団を牛耳るはずだった。ここの妹もアレク王子と恋に落ちるはずだったのだ。そし~」
「ん? ちょっと待て。他にも知っているのか? 自分に関係ない未来とやらを? その聞いている話を全部を最後まで言えるな?」
総団長は話を遮り、トロイの肩に手をかけた。
「ぐわぁぁぁ。は、離せ!」
「手を折られたくなければ話すんだ」
「… いいだろう。その代わり条件がある。我々を解放しろ」
「話の内容による。有意義な話なら解放しよう」
総団長! え? 解放するの?
「よし。まずあの方は未来が分かると仰って、何人かの同年代の上位貴族を集めお話会をされた。共に戦争を終結に導こうと。それで身近な出来事の未来をいくつか話され、それが数日後見事的中させた。私はその時この方のおっしゃる事は『本物だ』と確信したのだ。そう、未来を統べる国のリーダーだと。その方が話された未来の出来事に私達、タッカー家の事もあったのだ。さっき話した事だよ」
「しかし、矛盾がある。ラモンが登場してもお前は第二騎士団長になったではないか?」
「それは関係ない。第二の団長の席は私の実力とイバンナの力添えだからな」
「まぁ、いい。で? そこの妹はアレクと? だったか?」
「あぁ、アレク王子が将来妹と添い遂げる。あの方の話では第一王子はイバンナと結ばれたいが故に降下する。我が父の汚名や醜聞が、未来の王妃の実家として不適切だとイバンナが叩かれるのだ。しかし第一王子はイバンナと離れられない、それほど愛しているから。だから、第一王子は自ら王位継承権を放棄し降下するんだ。そして、第二王子は予定通り他国へ婿へ、アレク王子は我が妹と恋に落ち伯爵家を継ぐ」
「お前は継がないのか?」
「あぁ。話はまだ先がある。この妹が、アレク王子がこの先の出来事で大きな負傷をする際、命を助けるんだよ。妹はあの方の腹心だからな、その時にあの方から最上級ポーションを貰うんだ。それで、命を助けた妹と恋に落ち、あの方へアレク王子は忠誠を誓うんだ」
「お前に関係ないじゃないか? 早く話を進めろ」
「うっ。わ、私は、父の不正をあの方と共に暴き、ついでに他の貴族の不正も次々と暴いていく。貴族として清廉潔白な偉大な男として公爵へ昇格する未来が約束されていたのだ! それを、あの女、ラモンが現れたせいで… 何もかもがおかしくなった。今ならまだ間に合うんだ。今日は婚約式だからな、まだ結婚までに至っていない。だからこそ今の内にラモンを、本来の輝かしい未来の為に邪魔なやつを消せば、私が、皆が幸せになる本来の未来へと繋がる。私は正しい事をしたんだ! 正しい事をしたんだぁ!」
はぁはぁ、と息を切らしてドヤ顔でキメるトロイ様。しかも、『正しい事をしたんだ』って二回も言ったよ。ぷぷぷ。
私達はお互いに目を合わせ頷く。多分みんなが思い至ったであろう、いつか王女様が私に話した小説の話を思い出した。
『下克上女王は国で一番のバラを咲かせる』
「ふ~。そうか。ではあの方と言う黒幕はブリアナ王女で間違いないな?」
「なっ! そ、それは…」
「あぁ? どうなんだ?」
「グッ…」
総団長はイラついているのか、何も言わずにトロイさんの肩を外した。
「ガァぁぁぁああ!」
「次は折る」
「ひっ! そ、そうだ! あの方とは王女様だ」
チョロっ。まぁ、アホな下半身を持ってるトロイさんじゃ関節外しただけで吐いてしまうか。もうちょっと仲間を見た方が良かったね。ブリアナ王女様。
「なぜ、お前達が王城に入れたかはあとで拷問するとして。そこの女も覚悟するように。口の仕掛けを取ったら洗いざらい吐いてもらうからな。ところで、トロイ、もう一つ質問がある」
「はぁはぁ、何だ? それより解放する約束ではないのか? 話が違うじゃないか!」
「あん? 有意義な話ならと言ったはずだ。私達にとっては全く有意義ではない。お前らの妄想話だろ?」
「は? そ、そんな… やばい… 殺される…」
トロイさんは一気に顔が青くなりブツブツ言い始める。
「おい、トロイ、ドーンにも何か仕掛けたか? お前じゃなくてもいい。別の誰か、別の仲間が攻撃したとそんな話は聞いていないか?」
「ド、ドーンだと? 知らない。今夜のターゲットはラモン一人だ」
「… 本当だな? また聞くぞ、腕に?」
「ほ、本当だ。ドーン副団長は計画に名前がなかった」
納得したのか、総団長はとりあえずここで一旦尋問を止めるようだ。まだ、王城ではパーティーしてるもんね。
「ユーキ、こいつを最上の牢へ入れておけ。妹の方もな」
「了解しました」
「キャス、至急陛下の元へ。何もないと思うが警備を強化しろ。パーティー終了後に話があると伝言を頼む」
「了解」
「スナッチは第二王子につけ。護衛は居るだろうがそれも含めて変な動きがないか警戒しろ」
「はい」
「スバル、ユーグを探して王女を見張れ。今でも第五がウジャウジャついてるが、表面上は姿はないはずだ。会場内、半径二メートル以内で誰と話したなど、細かく観察しろ」
「了解です」
「ラモン、お前は… 王城の部屋を用意する。今日はこれから明日呼びに行くまで外に出ない事。危険だ」
「了解です」
「よし。解散」
「「「「はっ」」」」
やっぱり王女様だった。そして小説の内容… 物語だからかな? ちょっと所々無理ある設定があったな。あのトロイが清廉潔白? 下半身が我慢出来ないのに?
ふ~。
とりあえず、上手く行った。
さて、ドーンの記憶の事、どうしよう。総団長に言うべきか… う~ん。