翌日の午後、団長会議の為王城へ向かう。

「ねぇ、ドーン。今回は新旧の顔合わせかな?」

「恐らく。団の隊員達も移動する者が多いようですし、今日は副団長も揃うでしょうね」

「そう… 昨日のアレで思ったんだけど、第二大丈夫かな? 古巣なだけにちょっと心配だわ」

 今日の会議室はいつもと違いかなり広かった。ガヤガヤと人で溢れている。

 ん? 騎士服着てない人もいるなぁ。誰だろう?

「おう、チビ。よかったな~また団長になれて」

 来たよ。第六。今日の呼び名はチビか。はは。

「ええ、お陰様で。ユーキさんも団長に残れてよかったですね?」

「てめぇ、舐めてんのか?」

「は~、いっつもそのセリフ。いい加減違う事言って下さいよ~」

 昨日のトロイさんでイラついている私は第六でうっぷんを晴らす。ごめんよ。

「俺ほどの逸材はいないって事だよ。なんせ剣と魔法だからな。どうだ?」

「へーへーすごいですね~」

「こいつっ! まぁ、いいや。それより今後は連携する事があるから足引っ張るなよ」

「は~、そうだった。よろしくで~す」

 ユーキさんはそう言うといつもの様に立ち去っていく。

「ドーン、第三は城内警備でしょ? 第六との連携って?」

「第六は王城上空警備と牢屋番です。何かと接点がありますね」

「そう言う事か… やだな~、ユーキさん話聞かなさそうだし」

「まぁまぁ。ある意味御し易いのでは? 今までの感じでは単純でしょうから。あちらは副団長がしっかりしていますね」

「副団長ね。どこも副団長って大事よね。いつもありがとうね、ドーン」

「いえいえ」

 と、話をしていたら次はシニアスさんがやって来る。

「やぁラモン。久しぶりだな。って、昨日顔は見たが」

「あっ! 副団長! お久しぶりです。びっくりしましたよ!」

「おいおい、もうお互い第二じゃないんだ。その呼び方はよせ」

「失礼しました。シニアスさん」

 そうだった、そうだった。私の後任、第七の団長に就いたのは、元第二のメガネ副団長だった。

「それより、今日はこんなに… ちらほら部外者が居る様だがどうなっている?」

「何でしょうね? 何も聞いていませんよ」

「新第二の団長、気をつけろよ。色々と噂が絶えない人物だ」

「と言うと?」

「ここでは何だ… また引き継ぎの時にでも」

「了解です」

 シニアスさんとは笑顔で別れ、そろそろ会議が始まるので私は自分の席を探す。

 ふ~っと私は新団長の席について総団長を待つ。ちょっと遅れてる? 十分程開始時間が過ぎている。

「やぁ、ラモン嬢。昨日ぶりだね?」

 隣の席に着いたのは例のトロイさん。時間が押してるとは言え遅くない?

「そうですね」

「あれ~? 今日はつれないなぁ。今日は僕の晴れ舞台だからね、父と妹達が来ているんだ」

 にっこり笑顔で指を指した先には、つ~んとした顔で父親と話している着飾ったお嬢様と、その影に隠れて赤い顔でアレクを見つめるお嬢様。と、その他大勢。

 はぁ? 授業参観か? あの令嬢ってどこかで見たような…

「それは、それは… 総団長の許可は取ってありますか?」

「必要ない。僕の家は特別でね」

 と、ウィンク。

 このボンボン、大丈夫なの? 本当に陛下が任命したの? このお花畑具合… 何か裏があるとか? 第二でそんな事、やめてあげて欲しい。頭痛い。

 ようやく総団長が来たのは、開始予定の十五分後だった。

「すまない。待たせたな… ん? 部外者が居るようだが?」

 トロイさんが意気揚々と立ち上がり話し出す。

「総団長、失礼しました。本日の会議、父と妹達が見学をしたいと申しまして連れて参りました。窓際にて待機しますのでご容赦下さい」

「は? 却下。部外者は出て行ってくれ」

「なっ! 無礼だぞ。私はあのタッカー伯爵家だぞ!」

「関係ない。おい、副団長達、連れ出せ」

 各副団長は困惑しているが、ドーンが先陣切って伯爵家の当主とお嬢様二人、侍女さん達を追い出す。『きゃ~』『わ~』とうるさい。

 しばらくして静かになった。ようやく会議が始まる。

 呆気に取られていたトロイさんもハッとなって動き出す。

「総団長! 我が伯爵家、妹はミハエル様の婚約者ですよ? 次期王妃です! 無礼じゃないですか?」

「バカか。これは騎士団会議だ。国の政にも関係してくる… 言わずとも分かるだろう?」

「しかし、次期王妃の希望を無下にするなんて! これはミハエル様に報告させて頂きます!」

「勝手にしろ… 人選を誤ったようだ。それよりトロイ、これ以上何か言うならついでにお前も出て行け。目障りだ」

 …

 ひょえ~。団長になったばかりなのに、いきなりクビ?

 さすがに追い出されるのは嫌なのか、トロイさんは怒りで拳をブルブル震わせながら着席した。

「これより会議を始める。新団長、副団長の顔合わせと今後の各団の課題を発表する」

 それからは淡々と会議は進行した。順に名前を呼ばれて一礼を繰り返す。

「次は第一のメンバーだ。前第二の団長ケイン、前第三の団長ユーグナーが新たに加わる。よろしく頼む」

 わ~! ケイン団長だ! もう団長じゃないのか。でも、すごい! 出世だね。私もついついうれしくなる。

 ニコニコとケインさんを見ていたら、横にいたスナッチ副団長にまたしても口パクで『ば~か』と言われた。ちっ。

「最後に、これから言う事は騎士団でのルールだ。特にトロイ、肝に銘じろ」

 トロイさんは名前を呼ばれたのでビクッとなっている。

「団長は同格だ。爵位や歳は関係ない。まして実家の家がどうとかも関係ない。王族の親戚? それを言うなら、私は陛下の叔父、第四のアレクサンダーは第三王子、第一のユーグナーは筆頭公爵家である。しかし、家の権威や威光はこの騎士団には存在しない。彼らはそんなモノをひけらかしたりはしない。騎士団とは国を守る盾であり剣だ。そこに家は関係ない。わかったな?」

 明らかにトロイさんを見て話している総団長。キリッとした目が迫力ある。

「…」

「わかったのか? トロイ?」

「な、なぜ私を指定… くっ、はい」

「よし。以降、団長同士は呼び捨てで良い。ただし団長だけだと思って尊大な態度は止めとけよ? 副団長にも敬意を払え。隊員達にもだ。人としての底が知れるぞ?」

「ぐっ」

 ワナワナ肩が震えている。地震か? って言うほど震えてる。

「これより二週間で古巣の掃除と引き継ぎ、二週間後からは新しい団での引き継ぎだ。では解散」

 トロイさんは皆が立ち去った後も座っていた。よっぽど悔しかったのか、ムカついたのか。

 あの人大丈夫かな? 一騒動起きなきゃいいけど。変なフラグが立ったっぽい。やだな~。