「はぁ〜……」
林間学校にて夜の宿舎。大浴場前のベンチにて。
私は特大のため息をついた。
昼間はただ山歩きをさせられただけで
夜のキャンプファイヤーは雨で潰れて
仲のいい女子はみんな違う部屋で
私の好きな早瀬君とちょっとくらいなんかあるかなーとか思ってたのに何にもないどころかまだ一回も会ってない。
私の林間学校は結構ついてない。というか、割と最悪。
「あれ、もしかして、佐々木?」
後ろから誰かに声をかけられた。
振り返るも眼鏡がなくて誰かわからない。お風呂で無くしたら嫌だから置いてきてしまった。
でも声的には恐らく…
「えっと、早瀬君、で合ってる?ごめん眼鏡なくて見えなくて…」
「あ、うん!合ってる合ってる!」
……。
話したいんだけど、何を話せばいいのかわからない。
微妙な沈黙が2人の間に起きる。いつの間にか早瀬君は私の隣に腰掛けていた。
「め、眼鏡ないと雰囲気変わるね。」
「あー、よく言われる。なんか変だよね。自分で見ててもちょっとだけ誰?ってなるもん」
「いやいや自分はさすがに分かるでしょ。」
よかった。下手になんか言ってすべったらどうしようとか思ったけど笑ってくれた。
「あっ、俺なんなんだモンジャしに行かないと。春翔に呼ばれてるんだった。」
「ヤバいじゃん早く行かなきゃ神山君拗ねるよ。」
「明日口聞いてくれなくなるかも?」
「それは拗ねすぎ。」
割と会話のテンポはいい。やっぱり彼は話し上手だと思う。
「じゃあごめん行くね!」
「うん、じゃあね〜」
立ち上がって歩き始めようとした時、
早瀬君は振り返った。
「ん?どしたの?」
「……変じゃない。」
「…え?何が?」
「…眼鏡ないの。全然変じゃない。」
「え、あ、ありがと。」
急にどうしたんだろう。しかもこのタイミングで。
「いや、あの、」
「え、うん。」
「……めっちゃ可愛い。」
そう小さく言うと彼は走り出した。今度こそ部屋に戻るらしい。
「……っえ…?」
いやいやいやいや、え?は?
顔が熱い。絶対赤い。これじゃあ当分部屋に戻れない。
…不意打ちは、ズルいと思うんですけど。
訂正。
私の林間学校めちゃくちゃ最高だ。