「でもなんでシャーリーがここにいるんだ?」

 俺がごくごく当たり前の質問をすると、

「なに言ってるのよケースケ。冒険者ギルド本部から専門家がくるって伝えてあったでしょ?」

 シャーリーはどこか小悪魔っぽく笑いながらそう答えた。

「まさかその専門家がシャーリー?」

「ちょっとなにその言いかた? アタシじゃ不満なのかしら?」

「そういうわけじゃないよ。ただ懐かしい知り合いと突然再会してびっくりしたのと、なんでシャーリーが冒険者ギルド本部から派遣されてるのかなって思ってさ。勇者パーティはどうしたんだよ?」

 シャーリーは勇者パーティのメンバーだ。
 片手間に冒険者ギルドの手伝いをする暇なんてないはずだ。

 勇者を助けた時に「ここしばらくは別行動してる」みたいなことを言ってたけど、その辺の突っこんだところまでは聞いてなかったんだよな。

「勇者パーティなら勇者がムカつくから正式に抜けたわ。今は実家に帰って冒険者ギルド本部でいろいろお手伝いをしてるの」

「ムカつくから抜けたって、お前なぁ……」

 実にあっけらかんと言い切っちゃったよ。
 勇者パーティは誰もがうらやむSランクパーティだぞ?

 まぁシャーリーらしいと言えばシャーリーらしいんだけどさ。

「だって勇者ってば情報収集が超適当なんだもん。こっちは命張ってるっていうのに、やっつけ仕事されたらやってらんないわよ。当然の権利でしょ?」

「それはまぁ当然だけど」

「その点ケースケの情報収集と分析は、詳細かつ正確で分かりやすかったわね。ケースケの凄テクを一度味わったら、もう勇者の粗末でしょぼいのじゃとてもじゃないけど満足できないわ」

「あはは、ありがと」

 シャーリーのことだから、間違いなく面と向かって勇者にも言ったんだろうな。
 俺より下とか言われて勇者の奴めざまーみろだな。

「それに理由で言えばケースケが抜けたのだって似たようなもんでしょ? あいつらがデキちゃってて、思うところがあったわけでしょ?」

「うぐっ……それはまぁそうなんだけどさ……」

 そっと胸を抑えると、心臓の鼓動が早くなっているのが感じられた。
 だけど俺はもう前みたいに、取り乱すようなことはしなかった。

 小さな棘がまだ残っているのは間違いないけど、大きな意味では吹っ切ることができたんだろうな。

「でもまさか、こんなことになるなんてね」

「こんなことって?」

「あの日、急にケースケが部屋から出てこなくなって仕方なく置いていったら、その後まるで世界から消えたみたいに足取りがピタッとなくなって、音信不通になっちゃったことよ」

「あー、他人から見たらそういう感じだったのか、俺」

「アタシ、あれからケースケのことかなり探したのよ? なのに全く足取りが追えないんだもの。今までどこで何してたのよ?」

「その件については本当に悪かった。連絡を取ろうともしなくてごめん。実はあの後ずっとあの部屋にいてさ。ほとんど外には出ていないんだよ」

「うそっ、あのままあの宿のあの部屋にいたの? ずっと?」

「アイセルと偶然出会った日までだから丸3年くらいかな。色々と精神的にダメージを受けててさ。いわゆるヒキコモリになってたんだ」

「まさかあの部屋にずっといただなんて……そりゃあその後の足取りが全くないはずよね。これは盲点だったわ……」

「灯台下暗しってやつだな」

「ほんとにね」

 なんて感じで、まるで昔に戻ったみたいにとても自然にシャーリーとの久方ぶりの再開を喜んでいたら、アイセルとサクラがポカーンとこっちを見ていることに気がついた。

 おっととしまった。
 久しぶりの再会でちょっとハイテンションになってたよ。

 2人にもちゃんとシャーリーを紹介しておかないとな。