『ホッチャーン! ホ、ホーッ、ホアアーッ!! ホアーッ!!』
 キング・オー・ランタンが奇声を上げると、

「おわっ!?」
 キング・オー・ランタンを中心に、全周囲に向けて猛烈な爆風が巻き起こった。

 相当な威力だ。

 どれくらいかって言うと充分離れていたはずの俺ですら、その衝撃ですってんころりんしてしまう――その寸前で、俺はサクラに抱き寄せられるように助けてもらっていた。

「助かったよサクラ、危うく転倒して後頭部を打つところだった」

 そしてさすがはパワー自慢のバーサーカーだな、これくらいじゃビクともしていない。

「ケイスケ、範囲攻撃っぽいのを持ってるみたいだから私の後ろに隠れてて」

「悪い、そうさせてもらう」

 俺は膝に手をついて少し屈んでサクラの後ろに隠れると、ひょこっと顔だけ出して戦況を見守ることにした。

「そうだ、アイセルは大丈夫だったのか?」
 アイセルは今の爆風を超至近距離で受けたはずだ。

 だけど俺の心配をよそにアイセルはピンピンしていた。

「アイセルさんなら心配ないわよ。魔法剣で斬ってたから」

「爆風を剣で斬ったのか?」

「向かってくる爆風を縦にザシュって斬ったら、ブワワッって左右に別れてったの。さすがアイセルさんよね」

「マジか。いまやSランクパーティの絶対エースとはいえ、改めてアイセルの成長は末恐ろしいな……」

 俺とサクラがそんな会話をしている間にも、アイセルとキング・オー・ランタンの戦いは続いていく。

 アイセルは度重なる爆風攻撃を斬り裂いて防ぎながら、一瞬の隙を突いてキング・オー・ランタンの懐へと飛び込むと、

「セイヤァッ!」

 魔法剣で鋭く斬りつけた。
 文句なしのクリーンヒットだ。

 さらにそこから、

「『連撃乱舞』!」

 強力な連続攻撃スキルで斬り刻むと、たちまちキング・オー・ランタンはボロボロのズタズタになり果てた。

「なーんか、でかくなった割にはあまり強くない感じ? 爆風攻撃は強烈だけど脅威ってほどでもないっていうか?」

 サクラのその見立てには俺も同意だった。

「そう見えるな。範囲攻撃できるようになっただけで、それ以外はあまり強くないのかな?」

 戦っているアイセルは、俺たち以上にそう感じているはずだ。
 でかい図体の割に思ったよりは手応えがない相手だって。

 だけどそこはやはりSランククエストの新種ゴーストだった。
 アイセルが勝機と見て一気呵成(かせい)にトドメを刺しに行こうとした時、

『ホッチャーン! ホ、ホーッ、ホアアーッ!! ホアーッ!! ホアーッ!! ホアーッ!!』

 キング・オー・ランタンが再び奇声をあげると、どこからともなく大量のジャック・オー・ランタンがわらわらと沸いて出てきたのだ――!

 突然の出来事に、だけどアイセルは慌てることなく冷静に、かつ瞬時に距離を取って対応してみせた。
 追ってくる数体のジャック・オー・ランタンも、危なげなく返り討ちにしている。

 だけどその隙に、出現した無数のジャック・オー・ランタンたちが、飛んで火にいる夏の虫のごとく次々とキング・オー・ランタンへと吸いこまれていったのだ。

 そしてその直後、キング・オー・ランタンの傷ついた個所が、時間を巻き戻したみたいに全て元通りに修復されていって――!

「わわっ、元に戻っちゃいましたよ!?」

 さすがのアイセルも驚いた声をあげた。

「まさか呼びだしたジャック・オー・ランタンを吸収して、ダメージ箇所を修復したのか!」

「なにそれズルっ!? もうちょっとで倒せそうだったのに、また最初からやり直しってこと!?」

 サクラが思わずといった様子で振り返って尋ねてくる。

「恐らくそうだろうな。しかも回復しただけじゃなくて、なんとなくさっきより一回りでかくなってるような……」

「確かにちょっと大きくなってるかも。ううっ、こんな目茶苦茶なズルするのがゴーストなのかぁ……」

「実体を持たないからこそできる芸当だな」

 なんにせよ、戦いは完全に仕切り直しとさせられてしまった。